下野竜也(指揮) 東京都交響楽団

生誕100年に新世代のソリストが奏でる3つの協奏曲

 別宮貞雄(1922〜2012)は東大で物理学・美学を学んだ後、パリに渡ってミヨーやメシアンに学んだ。前衛が花盛りの時代にあって、調性音楽を堅持、オペラ、交響曲、協奏曲など数多くの作品を残している。都響では選曲から創作の背景を読み解くシリーズ「日本管弦楽の名曲とその源流」のプロデューサーを務めたこともあってか、生誕100年に協奏曲3曲を集めた粋な企画が組まれた。

 これらを通して聴けば、高度な技術に支えられた別宮の創作が、万華鏡のような広がりを持つことに気づくはずだ。「ヴァイオリン協奏曲」(1969)は、後期ロマン派風の調性の限界のようなところから始まり、熱狂の舞踏へと流れ込む。作曲当時は“後衛”のように見えたかもしれないが、今日聴きなおすとそれなりに複雑。「ヴィオラ協奏曲」(1971)はその2年後の作だが、メロディーラインがはっきりしオーケストレーションも整理され、ずっと聴きやすく仕上がっている。「チェロ協奏曲」(1997/2001)は《秋》というサブタイトルが示す通り、抒情的・感傷的な音楽で、ロマン派の歌謡性を現代風の感覚でつかみなおした爽やかな作品。

 日本の現代音楽を積極的に紹介してきた下野竜也のタクトの下、目覚ましい躍進を遂げている若手たちがソロに立つのも注目ポイントだ。ヴァイオリンの南紫音やチェロの岡本侑也は難関国際コンクールで入賞した後、着実にキャリアを重ね、おなじみのソリストとなりつつある。ヴィオラのティモシー・リダウトはイギリス出身で今井信子に学び、独奏から室内楽まで欧州を中心に活躍する俊英だ。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2022年9月号より)

第959回 定期演奏会Aシリーズ[別宮貞雄生誕100年記念:協奏三景]
2022.9/30(金)19:00 東京文化会館
問:都響ガイド0570-056-057 
https://www.tmso.or.jp