伝統的な「交響曲第9番」の軽妙な幕開けと感動の終焉
それは感動的な光景だった。2013年2月、下野竜也の読響正指揮者としての最終公演、つまりブルックナーの交響曲第5番の終演後、一人ステージで喝采を浴びる下野は涙を拭っていた。そのとき観客が贈ったのは、7年間正指揮者を務め、ドヴォルザークの交響曲全曲はじめ多大な成果を挙げた彼をねぎらうと同時に、いま聴いたブルックナー演奏の素晴らしさを讃える温かな拍手だった。
その後首席客演指揮者となった下野が、9月の読響定期で再びブルックナーを聴かせる。曲は最期の交響曲第9番。至福・至高の名作だけに、5番以上の感銘を期待するのは当然だろう。自身認める“ブルックナー派”の下野は、大阪フィル指揮研究員時代に朝比奈隆、読響時代にスクロヴァチェフスキという両巨匠の音楽作りに接し、読響では4番、他の楽団では9番を含む数曲を取り上げてきた。彼のブルックナーは、両雄とはまた違って、緻密・緊密に構築しながら自然な味わいとスケール感を創出するスタイル。いわば“大言せずして雄弁に語る”点が魅力を成す。今回は、この特徴が彼岸の情感漂う第9番で存分に発揮され、重厚で壮麗な読響のサウンドも大きく寄与するに違いない。さらに前半がハイドンの交響曲第9番(!)。これは、管楽のみのトリオをもつメヌエットが終楽章に置かれた、面白い構成(ブルックナーの9番同様に快速フィナーレを欠いた)の3楽章交響曲だが、生演奏を耳にする機会はほとんどない。古典的交響曲の最初と最後の“第九”を並べるセンスは、まさに下野の面目躍如。あらゆる意味で足を運ばずにはおれない公演だ。
文:柴田克彦
(ぶらあぼ + Danza inside 2014年8月号から)
第540回 定期演奏会 9/9(火)19:00 サントリーホール
問:読響チケットセンター0570-00-4390
http://yomikyo.or.jp