フランス音楽へのオマージュを綴って
15歳で渡仏し、パリ国立高等音楽院のピアノ科を最優秀の成績で卒業した長崎麻里香。現在はフルートの工藤重典など、錚々たる名手と共演を重ねている俊才が、注目の初ソロ・アルバムをマイスター・ミュージックより発表する。その後押しをしてくれたのが、ギタリストの福田進一だというから面白い。
「私とマイスター・ミュージックさんとの最初の出会いは、工藤重典先生率いる『クドウ・シゲノリ・ウインド・アンサンブル』と参加したアルバムでした。その工藤先生と古くから共演なさっている福田先生が、私のリサイタルを聴きにいらしてくださり、そんなご縁もあって福田先生に今後のソロ活動の相談をしたところ『それなら、すでにCDを録音しているマイスターさんがいいんじゃないか』とアドバイスしていただいたのです」
収録曲はすべて得意のフランス音楽。フォーレの前奏曲集、クープランのクラヴサン曲集(第2巻〜第6組曲)、ラヴェル「クープランの墓」の3曲が並ぶ。
「フランス・バロックの代表的作曲家で、高名なオルガニストでもあったクープラン。それから約2世紀後に、やはりオルガニストとして活躍し、教育者としても多くの弟子を育てたフォーレ。その一番弟子だったラヴェルは、クープランの時代の音楽への崇敬を『墓』として描きました。そうした歴史の大河に思いを馳せながら、私なりのオマージュとして綴ったのがこのアルバムです」
全編を通じて、美しく磨かれた音色と、作品全体を俯瞰した構成美が光る当盤。それは、長崎がピアノを弾く際に最も大切していることに通じている。
「私の最終目標は、どんな音楽を弾く時も“自然”であること。フランス音楽の場合、このアルバムのクープランやフォーレもそうなのですが、母国語の発音との密接な関係を感じます。フランス語と同様に、独特の“崩し”や“抜き”がありますが、輪郭を崩してはいけない。それがフランス音楽だと思うんです。私は近年、声楽の方と共演する機会が多かったこともあり、そこから多くのことを学びました」
これまでに藤井一興、フェビエンヌ・ジャキーノ、ミシェル・ベロフ、エリック・ル・サージュ、ドゥニ・パスカルといった個性豊かな面々に師事し、それぞれの魅力を健やかに吸収してきた長崎。今後の活動スタンスも、「レパートリーを無理に広げるのではなく、大好きなフランス音楽を中心に、じっくりと突き詰めて磨いていきたいです」と、独自路線を標榜してみせる。直近の公演は、9月に王子ホールで行う原田陽(ヴァイオリン)とのデュオ・リサイタル。同じくパリで学んだ同世代と、ルクーやフォーレのソナタを共演するというから実に楽しみだ。
取材・文:渡辺謙太郎
(ぶらあぼ + Danza inside 2014年9月号から)
原田陽&長崎麻里香 デュオリサイタル
9/7(日)14:00 王子ホール
問:リトルCH 03-3440-0540
【CD】『さえずり〜フランス・ピアノ作品集〜』
マイスター・ミュージック
MM-2196 ¥2816+税