藤原歌劇団《コジ・ファン・トゥッテ》新制作が日生劇場で上演

川瀬賢太郎が初登場!
演出・岩田達宗が描く「シリアスなドラマ」としての《コジ》

左より:岡昭宏(グリエルモ)、田中大揮(ドン・アルフォンソ)、山本康寛(フェランド)
左:山口佳子(ドラベッラ) 右:迫田美帆(フィオルディリージ)

 《ドン・ジョヴァンニ》《フィガロの結婚》《コジ・ファン・トゥッテ》は、モーツァルトの「ダ・ポンテ三部作」とも呼ばれ、日本でも高い人気を誇っている。今回、藤原歌劇団が上演するのは3作の中では最後に書かれた《コジ・ファン・トゥッテ》。他の2作よりも重唱、すなわちアンサンブルが重視された作品として知られている。今回は、数々の話題作で日本のオペラ界をリードする岩田達宗の演出によるニュープロダクション。また、シンフォニーからオペラまで手がけ、今もっとも勢いのある指揮者・川瀬賢太郎が藤原歌劇団に初登場となるのも話題だ。日生劇場で3日間上演されるうち、初日&7月3日出演組の最終総稽古(ゲネラルプローべ)を取材した。
(2022.6/29 日生劇場 取材・文:室田尚子 撮影:寺司正彦

右:向野由美子(デスピーナ)

 幕が開くとステージ上には斜めに角度がつけられた円型の舞台が設置され、フィオルディリージとドラベッラ姉妹を模した等身大の人形が椅子に座っている。そこに息急き切って現れるのは老哲学者のドン・アルフォンソ。恋人の貞淑さをアルフォンソに疑われて激怒した青年軍人のグリエルモとフェランドに追いかけられているのだ。この登場シーンからして、これは、これまでのような楽しい喜劇ではないぞ、と感じさせられる。グリエルモとフェランドは本気でアルフォンソに怒っていて、彼を剣で斬りつけようとさえするし、アルフォンソの方も二人の若者の横暴な態度に怯えている様子。「女性の貞節はアラビアの不死鳥のようなもので、誰もみたことがない」というアルフォンソの歌からは、彼が過去に、女性から人生を左右されるほどの裏切りを受けたのではないかという深刻さが窺える。グリエルモたちは姉妹の人形を抱きしめて、自分達の恋人はその「不死鳥だ」というのだが、それが人形であることがまさに、そんな女性はこの世にはいないのだということをあらわにしてしまっている。

左より:山本康寛(フェランド)、向野由美子(デスピーナ)、岡昭宏(グリエルモ)
左より:山本康寛(フェランド)、向野由美子(デスピーナ)、岡昭宏(グリエルモ)、山口佳子(ドラベッラ)、迫田美帆(フィオルディリージ)

 このように、岩田達宗演出は《コジ・ファン・トゥッテ》というオペラを、「ちょっぴり苦いところもあるけれど、全体としてみれば楽しいドタバタ喜劇」とは考えていない。むしろ登場人物全員が「愛」や「人生」について真剣に考え、悩み、時に拒絶し時に受け入れる、「非常にシリアスなドラマ」として描いているのだ。このことは、レチタティーヴォの扱いにも表れている。モーツァルトの楽譜に忠実に再現しているために、従来よりもずっと言葉の「間」が大きく感じられるのだが、その「間」がその言葉を発している人の心の逡巡や、気持ちの揺れを強く感じさせるのだ。

 こうした細やかな心理描写は、当然、歌唱にも表れている。もともとモーツァルトが書いた音楽には、人物の心の動きが見事に描写されているのだが、従来の「ドタバタ喜劇」的演出だとそれを感じる前にストーリーが流れていってしまうきらいがあった。岩田演出は、そのモーツァルト本来の特質をしっかり前面に押し出す。第2幕、フェランドに惹かれてしまう自分の心をかえりみてフィオルディリージが歌うアリア〈お願いです、愛しい人、私の過ちを許して〉では、歌詞に応じて照明(大島祐夫)が切り替わることでその心の揺れを表現。こうしたところにも「シリアスなドラマ」としての目配りがよく効いていた。

 そのフィオルディリージを歌うのは、近年進境著しい迫田美帆。アジリタの軽やかさはもちろんのこと、声に芯が一本通っているようなある種の「強さ」も持ち合わせている。妹のドラベッラにはソプラノの山口佳子。ふくよかで奥行きのある声の持ち主で、ちょっと大人っぽい、でも可愛らしいドラベッラを好演していた。グリエルモの岡昭宏、フェランドの山本康寛は、ヴィジュアル的にも軍服のカッコいいイケメン二人組。ゲネプロなので声は抑え気味だったが、他人の言うことよりも自分自身の思いが突っ走ってしまう「若い男」というキャラクター理解が際立つ。デスピーナの向野由美子、ドン・アルフォンソの田中大揮は共に安定した歌唱力で舞台を引き締めていた。

 岩田演出は常に「男と女」の間にあるジェンダー差が意識されているが、今回の《コジ・ファン・トゥッテ》でもその視線は健在。合唱団の衣裳にぜひ注目してほしいのだが、男が上位に立ち女を抑圧する社会の戯画化になっている。そしてラストシーン、女性たちがどんな行動に出るのか。それは劇場で、皆さんの目で確かめてほしい。

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Information

藤原歌劇団・NISSAY OPERA 2022 公演
モーツァルト《コジ・ファン・トゥッテ》
(新制作、全2幕・字幕付き原語(イタリア語)上演)

2022.7/1(金)、7/2(土)、7/3(日)各日14:00 日生劇場

演出:岩田達宗
指揮:川瀬賢太郎
管弦楽:新日本フィルハーモニー交響楽団

出演
フィオルディリージ:迫田美帆(7/1, 7/3) 中畑有美子(7/2)
ドラベッラ:山口佳子(7/1, 7/3) 高橋華子(7/2)
グリエルモ:岡昭宏(7/1, 7/3) 龍進一郎(7/2)
フェランド:山本康寛(7/1, 7/3) 渡辺康(7/2)
デスピーナ:向野由美子(7/1, 7/3) 河野めぐみ(7/2)
ドン・アルフォンソ:田中大揮(7/1, 7/3) 小野寺光(7/2)
合唱:藤原歌劇団合唱部

問:日本オペラ振興会チケットセンター03-6721-0874 
https://www.jof.or.jp
https://www.jof.or.jp/performance/2207_cosifantutte/