中畑有美子(ソプラノ)

アジリタもレガートもあるフィオルディリージに向ける意欲

 潤いのある声、美しいフレージング、巧みな装飾歌唱。いま存在感を増しているソプラノ、中畑有美子は言葉も美しく、固めた基礎の違いが感じられる。

 「イタリア声楽コンコルソでミラノ大賞をいただき、ヴェネツィア国立音楽院に2年半ほど通いました。向こうの学生はみな絶対に舞台に立つという強い気持ちがあって、すごく刺激になりました。また、フェニーチェ劇場で学生は10ユーロでオペラが観られ、生の舞台を観るとやる気になりました」

 もちろん苦労もあった。

 「母音が浅いとかさまざまに指摘されましたが、居残りも含めてよく指導してもらえました」

 それがすぐれた歌唱の土台になっていることは、言うまでもない。

 ピアノやエレクトーンに親しんだ少女が、その先生に促されて高校時代に志した声楽。昭和音楽大学のイタリア研修でオペラのおもしろさに目覚めたが、本気になったのは「イタリアに留学してからですね」。そこではほかにも大事な決意をしている。

 「日本では私でもどちらかといえばドラマティックな声ですが、イタリアではもっと重い声の人が多いので、勧められるレパートリーが日伊で違って悩んだことも。結局、自分をくくるのをやめるところに落ち着きました。自分が歌いたいものをあきらめず、トライできるものはトライしていこうという気持ちになりました」

 一番好きな役は《愛の妙薬》のアディーナで、《コジ・ファン・トゥッテ》ならデスピーナに思い入れがあると語るが、7月の藤原歌劇団・NISSAY OPERA 2022公演(演出:岩田達宗、演奏:川瀬賢太郎指揮 新日本フィル)でのフィオルディリージへのトライに躊躇はない。

 「このオペラでアジリタと美しいレガートの両方を与えられているのはフィオルディリージだけ。恋人がいるからダメ、と葛藤しながら、好きな気持ちに抗えないところなど、実はかわいらしい女性ですし、大変ですがやりがいのある役です。ただ、聴いている分には軽やかでも、自分がコンサートで歌うと、アリアと重唱だけでもかなり疲労感があるので、本番までに鍛えます」

 クラシカル・ポップや歌謡曲も歌う女声8人のアンサンブル「OTTO GIGLI(オットジーリ)」(イタリア語で「8本の百合」の意)でも活躍する。

 「音色が違うソプラノの声をそろえるのは男性との重唱より断然難しい。アンサンブルの勉強になっています」

 それが《コジ》に活きるのは疑いない。ところで、4月には藤原歌劇団《イル・カンピエッロ》のガスパリーナも歌ったが、「なにかがあるとパッと火が点くところはフィオルディリージと似ています」と語るので、そういう面は自分にもあるかと問うと、「女性ならみんな持っているのでは」。

 持てるものが幾重にも重ねられ、役が深まりそうだ。
取材・文:香原斗志
(ぶらあぼ2022年6月号より)

藤原歌劇団・NISSAY OPERA 2022 公演
モーツァルト《コジ・ファン・トゥッテ》(新制作、全2幕・字幕付き原語(イタリア語)上演)
2022.7/1(金)、7/2(土)、7/3(日)各日14:00 日生劇場
問:日本オペラ振興会チケットセンター03-6721-0874 
https://www.jof.or.jp
※中畑有美子は7/2(土)に出演。その他の配役は上記ウェブサイトでご確認ください。