
郷土が生んだ英雄、モーツァルトの精神を現代に引き継ごうという音楽家たちによって作られたオーケストラが、カメラータ・ザルツブルクだ。1952年にザルツブルク・モーツァルテウム音楽院の院長だったベルンハルト・パウムガルトナーによって創設。ワルターに師事し、カラヤンを育てた名匠のもと、当時はあまり演奏されなかったモーツァルトの初期作品を録音、さらにザルツブルク音楽祭に参加するなど、モーツァルト・オーケストラとしての名声を高めていく。
1978年に伝説的なヴァイオリン奏者、シャーンドル・ヴェーグが首席指揮者に就くと、その室内楽的な音楽作りが高く評価された。レパートリーもロマン派まで広がり、アンドラーシュ・シフとのモーツァルトのピアノ協奏曲の全曲録音が行われたのもこの頃。1997年に首席指揮者になったロジャー・ノリントンのもとでは、ピリオド奏法も導入するなど新時代の息吹を取り入れた。現在は、特定のポストをもつ指揮者を置かないスタイルで活動している。
そのカメラータ・ザルツブルクが来日を果たす。ザルツブルクからモーツァルトの響きを届けるべく、演奏する曲はすべてモーツァルトだ。
庄司紗矢香を迎えたプログラム(6/10 サントリーホール)では、ヴァイオリン協奏曲の第4番と第5番、そして交響曲第41番を演奏。2曲のコンチェルトを弾く庄司は、集中力の高い演奏が特徴で、近年ではピリオド奏法への傾倒も深い。典雅だけでなく、鋭い洞察力をもったモーツァルトが聴けそうだ。「ジュピター」交響曲は、指揮者なしでの演奏。このオーケストラが培ってきた歴史が詰まった響きを堪能したい。
鈴木優人とイム・ユンチャンが出演するプログラム(6/9 東京芸術劇場、6/11 サントリーホール)では、今度はピアノ協奏曲がメイン。ヴァン・クライバーン国際ピアノコンクールで最年少で優勝したイム・ユンチャンが、第24番と第25番を弾く。持ち前のテクニックを生かした、若々しいモーツァルトを奏でてくれよう。また、ヨーロッパの古楽シーンでは欠かせないソプラノ歌手、イム・ソンヘが、コンサートアリア〈どうしてあなたを忘れられようか〉を歌う。そして、この日に指揮をするのは鈴木優人。バッハ・コレギウム・ジャパンの首席指揮者などを務めるマルチな才人が、ザルツブルクのオーケストラからどのような音を引き出すか。
なお、6月7日の新宿文化センターでの公演では、交響曲第29番、ヴァイオリン協奏曲第5番(庄司紗矢香の独奏)、交響曲第41番「ジュピター」を演奏。シンフォニーを中心にしたプログラムが楽しめる。
文:鈴木淳史
(ぶらあぼ2026年4月号より)
カメラータ・ザルツブルク 2026年日本公演
2026.6/9(火)♦19:00 東京芸術劇場 コンサートホール
6/10(水)★、6/11(木)♦ 各日19:00 サントリーホール
問:ジャパン・アーツぴあ0570-00-1212
https://www.japanarts.co.jp
他公演
2026.6/6(土)★ 兵庫県立芸術文化センター(0798-68-0255)
6/7(日)★ 新宿文化センター(03-3350-1141)
♦イム・ユンチャン(ピアノ) ★庄司紗矢香(ヴァイオリン)
※公演により出演者、プログラムは異なります。詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。

鈴木淳史 Atsufumi Suzuki
雑文家/音楽批評。1970年山形県寒河江市生まれ。著書に『クラシック悪魔の辞典』『背徳のクラシック・ガイド』『愛と幻想のクラシック』『占いの力』(以上、洋泉社) 『「電車男」は誰なのか』(中央公論新社)『チラシで楽しむクラシック』(双葉社)『クラシックは斜めに聴け!』(青弓社)ほか。共著に『村上春樹の100曲』(立東舎)などがある。
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