【SACD】J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ& パルティータ(全曲)/戸田弥生

 弓圧を十分にかけ、時にたっぷりのヴィブラートもいとわない“伝統的スタイル”の延長線上にあるバッハ。気迫のこもった熱演は、まるで求道者のよう。戸田弥生は、決して聴き手に媚びない。安易に“流行り”のピリオド奏法へ寄せもしない。息つく間すら与えぬ、緊張感の連続。無伴奏6作の全楽章でもっとも浮遊感に満ちたソナタ第3番の「ラルゴ」ですら、それなりの重みを伴う。しかし、聴き進むうち、いつしか、深い彫琢が随所に施された、独特の響きの世界へ引きずり込まれてしまう。そして、すべての出来事が、堅固で一貫した、戸田の美学のもとに収斂されていることを知る。
文:寺西肇
(ぶらあぼ2022年7月号より)

【information】
SACD『J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ& パルティータ(全曲)/戸田弥生』

J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第1番〜第3番、無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第1番〜第3番

戸田弥生(ヴァイオリン)

妙音舎
MYCL-00021(2枚組) ¥4400(税込)