今年のテーマは「ロッシーニ生誕230年~その時代のヨーロッパ」
取材・文:柴辻純子
第42回草津夏期国際音楽アカデミー&フェスティヴァルが、3年ぶりに海外からの講師を招いて開催される(8月17日~30日)。2020年は中止、昨年はコンサートのみと縮小を余儀なくされたが、新たにスタートする今年は、イタリアの作曲家ロッシーニと彼の時代のヨーロッパがテーマである。本音楽祭・音楽監督の西村朗に話を聞いた。
「今回3年ぶりに心機一転、スタートするにあたって、今までやってきたことの繰り返しではなく、新しい色彩や魅力を積極的に加えていこうと考えています。そこでなぜロッシーニなのかと言うと、19世紀初頭、ナポレオン戦争は1812年にだいたいケリがつき、14年のウィーン会議でヨーロッパは新体制によって落ち着きを取り戻そうとしていました。心身共に疲れて貴族もボロボロになったわけです。そこに現れたのがロッシーニ。《セヴィリアの理髪師》とかブッファ作品は、イタリア・オペラを活性化させ、1820年代からヨーロッパの主要文化都市ウィーンやパリではロッシーニ旋風が吹き荒れ、地域の作曲家や貴族たちに影響を与えました。ウィーンではシューベルトが影響を受け、ベートーヴェンでさえ脅威に感じていたといいます。
いま我々は、コロナ禍で、それを乗り越えるにあたって、難しい時代を経験した後の出発には思い切った後押しが必要で、かつてロッシーニの明るい音楽が追い風を作ったように、彼の作品や存在は、いまの時代と重なって面白いのではないかと思いました。ロッシーニをちょっと違う角度から見ることで、ロッシーニの再発見、ロッシーニとウィーンの関係の再発見にもつながる。それが今回のテーマのひとつのミソになっています」
フェスティヴァル(コンサート)のプログラムは多彩で、西村監督は「どのプログラムもひねりを加えていて、味わい深さでは屈指のもの」と強調する。その視野の広さは興味深い。
「ウィーン楽友協会アーカイブ元所長のオットー・ビーバ博士に企画委員で入ってもらいました。様々な助言等から、さすがに目のつけどころが違うなと感じてます。ウィーンの資料を扱う責任者はロッシーニの存在をそういう風に見ているのかと、我々にとって新鮮な刺激となりました。音楽史をカチカチの縦の列ではなく、横にどういう拡がりがあるのかを見ているんですね」
一方、アカデミーでは、初参加となるメゾソプラノのアンゲリカ・キルヒシュラーガー、30回目となるオーボエのトーマス・インデアミューレをはじめ、ヨーロッパで活躍する現役の演奏家たちがマスタークラスを担当する。
「ほかに、おなじみのところでは、ピアノのクリストファー・ヒンターフーバー、フルートのカール゠ハインツ・シュッツ。クラリネットのヨハン・ヒンドラーは、今回が初参加です。私は指導をよく見て回りますが、本当に素晴らしいですよ。ドイツ的なもの、アジア的なものなど、多彩な方向性と価値観のなかで、より高度なものが生み出されていく。まさに音楽的な啓発感というのがアカデミーの特徴です」
講師も出演するコンサートは聴き逃せないものばかりだが、豪華なラインナップから特に注目すべきものをあげるとすれば。
「ウィーンの宮廷歌手として実力、人気ともにトップのキルヒシュラーガーのリサイタルは必聴です。彼女のリサイタルの日はドイツ・リートの夕べですが、別の日に今年のテーマ作曲家のロッシーニ作品も1曲入ります。2020年に予定していたインデアミューレの30回記念コンサートも、ようやく実現できます。私の独奏オーボエのための『迦楼羅』は、演奏が本当に大変なんですよ」
アカデミー合唱団が参加するサン゠サーンスの「レクイエム」は、演奏される機会が少ない作品である(8/21)。
「ほとんどの人が知らない曲だと思います。サン゠サーンスのセンスが光る非常に特殊な4管編成です。ハープも4台ですが、ほぼひとりで弾けるので、ここでは草津版として編曲し、すっきりした音響にして演奏します。ロッシーニとサン゠サーンスの関係性については、聴き手に委ねてもよいかもしれません。サン゠サーンスの作品はシリアスななかにも愛嬌があって、国は違っても二人とも音楽の喜びに対して率直に向かい合っている作曲家だと思います。それから、ウィーンにおけるロッシーニ旋風の影響を反映したシューベルトの序曲や交響曲第5番を取り上げる演奏会で、ベートーヴェンのハ長調のヴァイオリン協奏曲が演奏されるのも珍しいですね」
さらに、オープニング・コンサート(8/17)では名匠アントニ・ヴィット指揮の群馬交響楽団のブルックナーの交響曲第2番、クラウディオ・ブリツィのオルガン・リサイタル(8/18)ではウィーンにロッシーニ旋風が吹き荒れた1822年に生まれた、今年生誕200年のフランクも取り上げられる。
「フランクはオルガンの巨匠、サン゠サーンスも優れたオルガニストでした。実はオルガンというテーマもあって、J.S.バッハからの流れをたどり、渋いけど面白いプログラムです。ブルックナーの交響曲第2番は、壮麗さに到達する前のブルックナーで、作曲家の純粋なところがそのまま出ています。しかもキャラガン校訂版をヴィットが指揮するというのは大注目です! 群響は別日のアンサンブルにも出演しますね。群馬県と草津町の二つの行政体、地元の観光協会とも連携し、この国際色豊かな音楽祭を盛り上げていければと思っています」
※出演者変更のお知らせ(8/9主催者発表)
8/17(水)16:00 オープニング・コンサート
8/21(日)16:00 合唱とオーケストラ サン゠サーンス レクイエム ハ短調 作品54
指揮者 アントニ・ヴィット → 矢崎彦太郎 に変更
詳細はウェブサイトでご確認ください。
【Information】
🌳第42回草津夏期国際音楽アカデミー&フェスティヴァル🌳
ロッシーニ生誕230年~その時代のヨーロッパ
7/1(金)発売
2022.8/17(水)〜8/30(火) 草津音楽の森国際コンサートホール
8/17(水)16:00
オープニング・コンサート
アントニ・ヴィット(指揮) 群馬交響楽団 カリーン・アダム(ヴァイオリン)
8/18(木)16:00
クラウディオ・ブリツィ オルガン・リサイタル
クラウディオ・ブリツィ(オルガン)
トーマス・インデアミューレ(オーボエ) 在原豊 前原尚規(以上トランペット) 首藤健一 村田厚生(以上トロンボーン)
8/19(金)10:30
子どものためのコンサート at 天狗山レストハウス
天羽明惠(ソプラノ) アンサンブル音泉 他
8/19(金)16:00
クリストファー・ヒンターフーバー ピアノ・リサイタル
クリストファー・ヒンターフーバー(ピアノ)
カリーン・アダム(ヴァイオリン) 般若佳子(ヴィオラ) 辻本玲(チェロ)
8/20(土)16:00
ロッシーニとサン゠サーンスの室内楽
岡田博美(ピアノ) カリーン・アダム 泉里沙(ヴァイオリン)
辻本玲 タマーシュ・ヴァルガ(以上チェロ) 吉田秀(コントラバス)
カール゠ハインツ・シュッツ(フルート) ヨハン・ヒンドラー(クラリネット) 他
8/21(日)16:00
合唱とオーケストラ サン゠サーンス レクイエム ハ短調 作品54
アントニ・ヴィット(指揮) タマーシュ・ヴァルガ(チェロ) カール゠ハインツ・シュッツ(フルート) 高橋アキ(ピアノ)
天羽明惠(ソプラノ) 日野妙果(アルト) 小貫岩夫(テノール) 萩原潤(バス) クラウディオ・ブリツィ(オルガン)
草津アカデミー合唱団 草津フェスティヴァルオーケストラ&東京シンフォニエッタ
8/22(月)16:00
アンゲリカ・キルヒシュラーガー メゾ・ソプラノ・リサイタル
アンゲリカ・キルヒシュラーガー(メゾソプラノ)
クリストファー・ヒンターフーバー(ピアノ) 他
8/23(火)16:00
トーマス・インデアミューレ 草津アカデミー30回記念コンサート
トーマス・インデアミューレ 川村美樹 高島美紀(以上オーボエ)
カール゠ハインツ・シュッツ(フルート) ヨハン・ヒンドラー(クラリネット)
高橋鐘汰 若木麻有 佛田明希子 大木雅人(以上イングリッシュホルン) 加納律子(ルポフォン)
吉村真代 コルネリア・ヘルマン(以上ピアノ) クラウディオ・ブリツィ(チェンバロ)
8/24(水)16:00
ポピュラー・コンサート 動物の謝肉祭/サン゠サーンス
カール゠ハインツ・シュッツ(フルート) ヨハン・ヒンドラー 板倉康明(以上クラリネット)
カリーン・アダム 泉里沙(以上ヴァイオリン) タマーシュ・ヴァルガ(チェロ)
高橋アキ コルネリア・ヘルマン(以上ピアノ) 般若佳子(ヴィオラ) 須﨑昌枝(コントラバス) 他
8/25(木)16:00
カール゠ハインツ・シュッツ フルート・リサイタル
シューベルト:「しぼめる花」の主題による序奏と変奏曲
カール゠ハインツ・シュッツ(フルート)
鈴木大介(ギター) クリストファー・ヒンターフーバー(ピアノ) カリーン・アダム(ヴァイオリン) 般若佳子(ヴィオラ) 他
8/26(金)16:00
カリーン・アダム ヴァイオリン ・リサイタル フランク&コルンゴルトのソナタ
カリーン・アダム(ヴァイオリン)
岡田博美(ピアノ) 般若佳子(ヴィオラ) カール゠ハインツ・シュッツ(フルート)
8/27(土)16:00
ウィーンの室内楽とロッシーニ
ヨハン・ヒンドラー(クラリネット) アンゲリカ・キルヒシュラーガー 日野妙果(以上メゾソプラノ)
天羽明惠(ソプラノ) 村松稔之(カウンターテナー)
北見春菜(ヴァイオリン) 吉田有紀子(ヴィオラ) 大友肇(チェロ) クリストファー・ヒンターフーバー(ピアノ) 他
8/28(日)16:00
タマーシュ・ヴァルガ チェロ・リサイタル ブラームス:チェロ・ソナタ ヘ長調
タマーシュ・ヴァルガ(チェロ)
クリストファー・ヒンターフーバー コルネリア・ヘルマン(以上ピアノ) クラウディオ・ブリツィ(チェンバロ)
8/29(月)16:00
シューベルトとイタリア/シューベルト:交響曲 第5番
矢崎彦太郎(指揮) タマーシュ・ヴァルガ(チェロ) カリーン・アダム(ヴァイオリン) 群馬交響楽団弦楽アンサンブル 他
8/30(火)16:00
クロージング・コンサート
さらばロッシーニ、さらばサン゠サーンス/サン゠サーンス:ピアノ五重奏曲
クリストファー・ヒンターフーバー コルネリア・ヘルマン(以上ピアノ)
トーマス・インデアミューレ(オーボエ) 四戸世紀(クラリネット) クァルテット・エクセルシオ 他
問:草津夏期国際音楽アカデミー事務局03–5790–5561
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