大西宇宙(バリトン) & 小林道夫(ピアノ) デュオ・リサイタル

レジェンドと次世代スターで触れるドイツ歌曲の深遠

 バリトンのライジングスター・大西宇宙とピアノ界のレジェンド・小林道夫のリサイタルを意外に思われる方もいるかもしれないが、実は二人は2020年に日本製鉄音楽賞を揃って受賞している(大西はフレッシュアーティスト賞、小林は特別賞)。コロナ禍で延期になったものの、昨年は受賞記念コンサートで共演し、ベートーヴェンの「遥かなる恋人に寄せて」で息の合ったところを見せた。

 今回のリサイタルはその拡大バージョンと言えよう。プログラムも「遥かなる恋人に寄せて」で始まり、後期ロマン派の影響下にあるシェーンベルクの最初期の「2つの歌曲 op.1」へとつなげて、シューマンの「詩人の恋」で結ぶ。ベートーヴェンとシューマンは愛を巡る大きな連作歌曲であり、シェーンベルクの作品も2曲で15分近くを要する大作、しかも内容も恋愛がらみで、骨太の作品を並べつつ、一つの気分を通底させている。

 来年卒寿を迎える小林は、伴奏の名人としても伝説のスターたちを支えてきた。たとえば男声ではエルンスト・ヘフリガーやフィッシャー=ディースカウ、ペーター・シュライヤーといった大歌手たちの最盛期を知る、いわば歴史の生き証人だ。一方の大西は主にアメリカで実績を積みかさねているが、国内でも2019年のセイジ・オザワ松本フェスティバルでのオネーギンの代役で一躍脚光を浴び、その後の快進撃は目覚ましいものがある。

 このリサイタルはドイツ・リート伴奏の奥義を知る小林が、その精神を次世代のスターに伝える貴重な機会になるはずだ。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2022年7月号より)

2022.10/5(水)19:00 紀尾井ホール
問:紀尾井ホールウェブチケット webticket@kioi-hall.or.jp 
https://kioihall.jp