コロナ禍の21年5月、音楽監督ノットが東響に帰還して残した感動のライブ記録。すべてが綿密・微細で濃厚な、従来のスタイルとは一線を画したアプローチによる演奏だ。第1楽章冒頭からあらゆる動きに命が吹きこまれながら、ゆったりと歩が進められていく。それでいて終盤の畳み込みは鮮やか。以降も同様で、様々なフレーズが明確に縁取られ、第4楽章の沈静部分のニュアンスの豊かさと激しい場面との対比等が耳を奪う。そして、こうした方向性が大河のようなうねりを生み出し、曲全体に耳新たな迫真性をもたらす。コンビ8年目の絆を反映した個性的な名盤。
文:柴田克彦
(ぶらあぼ2022年7月号より)
【information】
SACD『マーラー:交響曲第1番「巨人」/ジョナサン・ノット&東響』
マーラー:交響曲第1番「巨人」
ジョナサン・ノット(指揮)
東京交響楽団
収録:2021年5月、ミューザ川崎シンフォニーホール(ライブ)
オクタヴィア・レコード
OVCL-00758 ¥3520(税込)