スケールの大きな若き才能に出会える喜び。戸澤采紀のファーストアルバムは特筆すべき水準の記録となった。知らずに聴けば、20歳の若者による演奏とは思えないだろう。技巧は完璧の域といえるが、それ以上に落ち着いた佇まい、芯の強さと柔らかさを兼備した音色、豊かな歌など、視野の広い成熟したヴァイオリニストの姿が浮かび上がる。もちろん瑞々しさや表現意欲も十分で、林絵里の練達のピアノとのアンサンブルも万全。プロコフィエフの妖しい抒情と力感、サン=サーンスの洒脱な歌心にフィナーレの興奮も素晴らしく、モーツァルトの均整と深き境地は心に残る。
文:林昌英
(ぶらあぼ2022年3月号より)
【information】
SACD『高崎芸術劇場 大友直人Presents T-Shotシリーズ vol.5 戸澤采紀 IN CONCERT』
モーツァルト:ヴァイオリン・ソナタ K.454/サン=サーンス:ヴァイオリン・ソナタ第1番/プロコフィエフ:ヴァイオリン・ソナタ第1番
戸澤采紀(ヴァイオリン)
林絵里(ピアノ)
オクタヴィア・レコード
OVCX-00091 ¥3630(税込)(SACD+DVD)[初回限定盤]
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