静岡から世界に発信するプロジェクト完結編、野平作品とフランスの名作を
歴史的な史跡、温泉などを数多く擁し、とりわけ富士山や駿河湾、遠州灘など雄大で、風光明媚な魅力をもつ静岡県。こうした静岡の遺産や自然を内外に発信しようという文化プログラムとして始まった「NHK交響楽団×野平一郎プロジェクト」は、グランシップで2018年から開催されてきた異色のコンサートシリーズである。静岡音楽館AOI芸術監督を務める作曲家・ピアニストの野平一郎に委嘱した新作「静岡トリロジー(三部作)」を毎年一作ずつ初演していく企画で、日本を代表するオーケストラのNHK交響楽団と野平一郎がタッグを組み、これまでにないプロジェクトとして好評を博してきた同シリーズ、この3月にいよいよ完結となる(本来2020年の予定だったが、コロナ禍の影響により延期となった)。
野平は、駿河湾の深い海から富士山へと押し上がる大空間、それを太古から育んできた悠久の時間をテーマに、オーケストラ三部作を構想してきた。一作目「記憶と対話」(2018)、二作目「終わりなき旅」(2019)はそれぞれ、静岡の自然が秘めている力をシンボリックに表現。洗練された響きを特徴とし、管弦楽曲として高い評価を受けた。
三作目である完結編は、「瞬間と永遠の歌」と題されている。今回の新作では、地元の英知が結集される。静岡県出身の詩人、大岡信の詩からの抜粋をテキストとし、選び抜かれた珠玉の言葉が連なり、オーケストラの豊かな響きに重層的な輝きをもたらすことだろう。とりわけ第3楽章では、富士山にまつわる言葉が巧みに用いられ、静岡の今後を示唆する「新生」が表現されるという。新作には、地元の静岡児童合唱団・青葉会スペリオルも出演する。さらに木や石といったプリミティブな打楽器が活用されるというから、意外性に満ちた響きが生まれそうだ。「静岡は自分を成長させてくれた重要な場所」と野平は語る。
「静岡をかたちづくった巨大な空間・時間の一端として富士山は抽象的に描かれ、タイトルはそうした壮大な時空の流れに由来します。静岡の未来を担う児童合唱が『時間』を表現します。時間の一瞬一瞬には、永遠なるものが隠されていると思いますが、私の音楽もそのようなものでありたいと考えています」
同コンサートでは、音楽史を彩った近代の名曲もプログラムに入れている。野平の新作に加え、ビゼー「アルルの女」第2組曲、ドビュッシー「牧神の午後への前奏曲」、そしてラヴェル「ラ・ヴァルス」も演奏される。パリでも学んだ野平は、ピアニスト、指揮者としてフランス近代音楽にも精通しており、創作からは、こういった作曲家からの影響も見て取れる。今回、自作とともにこれらの作品の指揮は野平自身が務めるが、「一年以上じっくり時間をかけた私自身のメッセージ」が込められた新作とフランスの歴史的名作、双方の魅力を存分に味わわせてくれるコンサートが待ち遠しい。
文:伊藤制子
(ぶらあぼ2022年2月号より)
2022.3/6(日)17:00 グランシップ中ホール・大地
問:グランシップチケットセンター054-289-9000
https://www.granship.or.jp
オンラインレクチャー 野平一郎のオーケストラ塾
〜「静岡トリロジー」完結へ。その壮大な道のりを紐解く〜
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