テーマはロシア音楽とセザール・フランク
京都コンサートホールが2022年度主催事業ラインナップを発表した。1月17日におこなわれた記者発表には、館長を務める指揮者の広上淳一とプロデューサーの高野裕子が出席した。
2021年度については、これまでのところ、海外オーケストラ以外は自主事業を中止することなくすべてのコンサートを開催できているものの、コロナ禍の長期化により客足にも大きな影響が出ているという。ただ、そうした苦しい状況のなかでも、「パンデミックに屈しないという想いのもと、できることに精一杯取り組めたことは大きな成果であり、困難な状況の中でも芸術は大事だということを提言できたのではないか」(広上)と手応えも感じた一年であったようだ。
2022年度の公演ラインナップにおいては、「ロシア音楽」と「セザール・フランク」を二大テーマに掲げた。
まず、5つの自主事業において、19世紀後半から20世紀前半のロシアの作曲家による作品を取り上げ、土着的な響きや強烈なリズムといった、ロマンティシズム漂うロシア特有の音楽語法を堪能できるプログラムが組まれた。第26回京都の秋 音楽祭 開会記念コンサート(9/17)では、話題の若手指揮者、原田慶太楼のタクトでラフマニノフのピアノ協奏曲第3番(独奏:髙木竜馬)とチャイコフスキーの第4番が演奏される。また、11月6日には「天才が見つけた天才たち」と題し、興行主として時代の寵児となり、ヨーロッパの芸術文化にも大きな影響をもたらしたセルゲイ・ディアギレフの生誕150年を記念した公演も。初共演となるパルカル・ロフェ指揮京都市交響楽団によりストラヴィンスキー「火の鳥」、プロコフィエフ「ピアノ協奏曲第3番」、リムスキー=コルサコフ「シェへラザード」の名曲3作をまとめて聴くことのできる贅沢なステージ。プロコフィエフのソリストには、アレクセイ・ヴォロディンが登場する。京都在住のピアニスト、イリーナ・メジューエワが出演する「ラフマニノフが愛したスタインウェイ」(11/23)では、ニューヨーク時代にラフマニノフが愛用していたスタインウェイ(1932年製/タカギクラヴィア所蔵)が関西初お披露目となるのも大きなトピックス。ラフマニノフはもとより、メジューエワが日本で積極的に紹介してきたメトネルやスクリャービンといったロシアのピアノ音楽のエッセンスが凝縮されたステージとなっている。
このほか、第11回関西の音楽大学オーケストラ・フェスティバル(9/19)や京都市ジュニアオーケストラの公演(2023.1/29)でも、チャイコフスキーやムソルグスキーの作品がとりあげられる。
もうひとつのテーマは、今年が生誕200年のアニヴァーサリー・イヤーに当たるセザール・フランク(1822-1890)。「どちらかというと地味で埋もれていた天才に、もう一度光を当てる試み」と広上は語る。ドビュッシーやラヴェル等に比べると知名度は決して高くないが、当時、熱烈な崇拝者(フランキストと呼ばれる)を生むほど支持された作曲家であり、本年度に実施される3公演は、オーケストラ、ピアノ&室内楽、オルガン作品と幅広いジャンルの作品がまとまって紹介される貴重な機会だと言える。高野は「神々しい響きをさまざまな形で体験してほしい」と力を込めた。
管弦楽作品で唯一、比較的よく演奏されるニ短調の交響曲は、京響の第668回定期演奏会で(指揮:沼尻竜典)。同時期のサン=サーンスのチェロ協奏曲第1番(独奏:カミーユ・トマ)や三善晃作品とのカップリングも興味深い。
フランクの作品のなかでも、演奏機会が少ないのが室内楽。10月にはアンサンブルホールムラタで、フランスの名手エリック・ルサージュ(ピアノ)と、弓新&藤江扶紀(ヴァイオリン)、横島礼理(ヴィオラ)上村文乃(チェロ)という日本の気鋭の若手たちの共演が実現。後期の円熟の筆致が見られるピアノ五重奏曲のほか、ルサージュのソロも予定されている(10/22)。
フランクを語る上で欠かせないオルガン作品を紹介する公演(11/3)も用意された。演奏するのは、ヴェルサイユ宮殿王室礼拝堂首席オルガニストの任にもある仏オルガン界の巨匠、ミシェル・ブヴァール。同ホールが誇るヨハネス・クライス社(ドイツ)の銘器で、ロマンの薫りあふれる代表作「前奏曲、フーガと変奏曲 ロ短調」の崇高な響きを堪能したい。これら3公演については、特別セット券も販売される。
京都の2つホール共通の「京都コンサートホール・ロームシアター京都Club」会員向けに行われる新たな試みが、館長の広上による「Jun’ichi’s Café 〜京都コンサートホール館長の音楽談義〜」(全3回)。ホール1階のカフェ・レストランを会場に行われる(Vol.3のみアンサンブルホールムラタ)イベントで、「ホールが空いているときに、館長自ら皆さんにコーヒーでも淹れていろんな話をしたら、ホワイエが賑わうのではないか」(広上)という発想から実現した企画とのこと。会員限定の催しだが、ゲストも招き、音楽談義を繰り広げるひとときにより、市民にもコンサートホール、オーケストラをより身近に感じてもらえる機会としたいという。
このほか、サイモン・ラトルとロンドン交響楽団(9/30)、アンドリス・ネルソンス指揮ボストン交響楽団(11/10)も来日、古都の秋を彩る。また、アンサンブルホールムラタでの京都北山マチネ・シリーズや北山クラシック倶楽部(各4公演)にも、若手からベテラン勢まで、国内外の話題のアーティストが出演する。
高野が「芸術や音楽が、自分たちの生活の中に必要不可欠だと感じてもらえるような企画」と語るとおり、先行き不透明な社会情勢のなか、シンプルに“音楽を聴く喜びを共有する場”としてのコンサートホールを目指す2022年度となる。
京都コンサートホール
https://www.kyotoconcerthall.org