“こと”で聴く和とウィーンの繋がり
その実力に比して名前が未だ幅広く浸透していなかったのが阪哲朗ではないか? その理由は主な活躍の場が音楽総監督を務めたアイゼナハやレーゲンスブルクの歌劇場などを中心とした欧州にあったためと思われる。
ところが2019年4月、山形交響楽団の常任指揮者就任後、様相が変わってきた。そして、大評判となった2021年1月のびわ湖ホールにおける《魔笛》や同年2月の新日本フィル客演でのモーツァルトやJ.シュトラウスIIでの名演が阪哲朗の名前を大きく知らしめることとなった。オペラではそのドラマ性を十全に発揮させて日本人離れした躍動感のある演奏を聴かせ、あるいはシンフォニーにおいては虚飾のない緻密で質実剛健な響きを現出させるその手腕は掛け値なく世界最高レベル。
そして、その阪がダレル・アンに代わり、この度日本フィル第737回東京定期演奏会の指揮台に立つ。プログラムはシューベルトの「ロザムンデ」序曲とブラームスの交響曲第3番、さらには石井眞木による箏のためのコンチェルト「雅影」およびこの作品と縁が深い古典の箏曲「乱輪舌(みだれ)」。シューベルトの「ロザムンデ」(魔法の竪琴)と「雅影」と「乱輪舌」は和洋の“こと”で繋がり、守屋多々志による絵画「ウィーンに六段の調(ブラームスと戸田伯爵極子夫人)」に描かれる「ブラームスはウィーンにおいて外交官の妻が奏でる箏の音を楽しんだ」という史実によって、後半のブラームスも箏と繋がるというコンセプチュアルなもの。知性と感性を大いに刺激されるコンサートとなること必至。
文:藤原聡
(ぶらあぼ2022年1月号より)
第737回 東京定期演奏会〈秋季〉【配信あり】
2022.1/14(金)19:00、1/15(土)14:00 サントリーホール
問:日本フィル・サービスセンター03-5378-5911
https://japanphil.or.jp