来日中のヨーヨー・マが世界文化賞メダル伝達式に出席

ジュネーヴ国際コンクール優勝の上野通明を称賛

 芸術文化の発展に貢献した国内外の芸術家の業績を称える「高松宮殿下記念世界文化賞」(主催:公益財団法人日本美術協会)は、32回目を迎えた今年、チェリストのヨーヨー・マが音楽部門の受賞者に選出された。10月29日、来日中のヨーヨー・マが、都内ホテルで常陸宮妃殿下ご臨席のもと開催された顕彰メダル伝達式に出席し、受賞の喜びを語った。

Photo: I.Sugimura/BRAVO

ヨーヨー・マ

 以下、受賞のスピーチ。
「私は自然や文化の力を心から信じています。そのパワーは人間の精神をより理解し、高める手助けとなります。この賞は私の人生の目標を追い求め続けようという勇気をくれます。そして、人と人のつながりを大事にして紡いでいこうと思います。信頼を築き、真実を求めることによって、私たちはお互いのために新たな高みに到達できるのではないか、一丸となってよりよい世界を築いていけるのではないかと考えています」

 選考委員を代表して祝辞を述べたチェリストでサントリーホール館長の堤剛は、「ヨーヨー・マさんは、チェロという楽器を世界的にポピュラーなものにしてくれました。あなたに続くチェリストにとって、それはたいへん大きな励みと助けになっています。日本での演奏活動は特にめざましく、大きな感動を日本の聴衆に与え続けてこられました。芸術家として、そしてひとりの人間として私たちの世界のためにされてきた貢献は誠に偉大です」と、音楽界だけでなく一般社会にも大きな影響を与え、世界平和に尽くしてきた功績を称えた。

左より:日枝久(日本美術協会会長/フジサンケイグループ代表) 、常陸宮妃殿下、ヨーヨー・マ

 続いておこなわれた記者会見では、この日の朝、ジュネーヴ国際音楽コンクールのチェロ部門で上野通明が優勝したという速報が流れたことが話題に。
「上野さんは、素晴らしいチェリスト。おめでとうと申し上げたいです。ニュースを聞いてすぐにYouTubeを確認しました。バッハの無伴奏チェロ組曲第3番のプレリュード、ブリテンのソナタ、そしてヒンデミットのソナタ…素晴らしい演奏でした。彼と会ったことはありませんが、実際にこのように人々にインスピレーションを与える、それが我々がやっている芸術の目的ではないでしょうか」と述べ、「このような若手のチェリストが誕生して嬉しく思いました。これで私も引退できる!」と笑わせた。

 パンデミックの間は、Zoomのようなテクノロジーを通して、医療関係者、入院している患者たち、卒業できない学生など、さまざまな人々と触れ合うことにより大きなインスピレーションを受けたという。「彼らのような人たちに音楽を通して癒やしと希望を与えられたら」と考え、今回の来日公演でも共演を務めたピアニストのキャサリン・ストットと一緒にレコーディングをおこなった。自身も音楽に癒されたそうで、「Over the Rainbow」の収録では演奏しながら泣いてしまったという秘話も明かした。
 今年3月、自身がマサチューセッツ州でワクチン接種を受けた際に、会場で待機する人たちの前でチェロを演奏したというニュースが世界を駆け巡ったが、その裏話も。
「いつも移動するときに車を使うのですが、トランクにチェロを入れるんです。でも、車から離れるときには楽器を持っていかないといけない。盗難に遭ったら保険が効かないから。もともと演奏するつもりはなかったんですが、大勢の人がいる会場にチェロを持っていったら、『弾いてくれるんですか?』となるんですね」とのことで、自ら持ち前のサービス精神を発揮したというよりは、どちらかと言えば偶発的な出来事だった様子。しかし、久しぶりに大勢の人々の前で演奏し、自身の想いを直接パーソナルな形で伝えることができたことには、大きな喜びを感じたようだ。

前列左より:日枝久、ヨーヨー・マ、清原武彦(日本美術協会副会長/音楽部門選考委員長)
後列左より2人目:堤剛(音楽部門選考委員/サントリーホール館長)
後列左より3人目:井上道義(音楽部門選考委員/指揮者)

 今回の来日では、10月30日名古屋、10月31日川崎、11月3日沖縄の3公演が組まれた。ここ数年取り組んできた「バッハ・プロジェクト」(11/3沖縄でも開催)については「人の声やことばを聞くツアー」だと語り、韓国と北朝鮮の国境、レバノン、ケープタウン、ダカールなど世界各地のさまざまな場所で実際に演奏してきたという。現代では、社会貢献を口にするアーティストは多いが、はるか前から常に文化と社会の関わり方を模索し、より良い社会の構築を目指してきたヨーヨー・マならではのプロジェクトだ。「私にできることはバッハを弾くことだけ」とあくまで謙虚だが、演奏だけでなく人々の対話を通じてたくさんのことを学んだという。

 約40年前、彼が演奏活動を始めた頃は、東洋人がクラシックを演奏することについて、「アジアの人がどうしたら西洋の音楽を理解できるのか?」とよく訊かれたというが、テクノロジーが発達した現代では、地域・歴史・文化・言語の違いはもう大きくないと語る。自分自身の価値観は大事にしつつ、ひとつのところに立ち止まらず、人間同士の信頼関係を築き、お互いのために何ができるのかを考えていくことが大切だと述べ、次代を担うデジタル世代の若者たちにエールを送った。

会見の終わりには、バッハの無伴奏チェロ組曲第1番よりプレリュードを演奏

高松宮殿下記念世界文化賞
https://www.praemiumimperiale.org/ja/