印田千裕(ヴァイオリン)& 印田陽介(チェロ)

2種の弦による稀少な姉弟デュオ、10年の熟成を聴く

左:印田千裕 右:印田陽介

 ヴァイオリンとチェロの二重奏でレギュラー活動を行う世界でも稀な存在。それが、東京藝術大学卒業後、英国王立音楽院で研鑽を積んだ印田千裕(ヴァイオリン)と、同じく藝大卒業後、プラハ音楽院に留学した陽介(チェロ)の姉弟デュオだ。2012年、陽介の帰国を機にデュオを組んで第1回のリサイタルを開催。以来、年1回公演を続け、今年10回目を迎える。

千裕「最初は姉弟なので始めたのですが、アンサンブルとして楽しくなり、ライフワークにもなってきました」

陽介「最も有名なラヴェルのソナタ以外は1曲も重ならずに10年やってきましたので、デュオの曲が意外に多いのを感じています」

 各々がソロ活動も行いながらの10年継続は並々ならぬ実績。2人は「1年がかりで準備し、最も多くリハーサルをするので、活動の中でも比重が高い」と口を揃え、この組み合わせの魅力も、陽介が「ほかの形態に比べると音の数が多く難度も高いが、弦楽器同士なので息が合うし、三、四重奏にはないソリスト的な対話や丁々発止のやりとりがある」と言えば、千裕も「主役と伴奏ではなく、2人の対話や対等のやりとりがずっと続く」と話す。ちなみに「姉弟ならではの息の合い方」は、共に「感じる」という。やはり長き継続にこの点は大きい。

 11月のリサイタルは、コダーイの二重奏曲が中心をなす。
陽介「多岐にわたるデュオのオリジナル作品の中から、バランス良く選んでいるのは例年同様ですが、10回目なので、最も大きなコダーイの二重奏曲を(2013年以来)もう一度取り上げることにしました。これは同編成の最重要曲であり、民族色と楽器の性能がうまく引き出されています」

千裕「自由な面や2人で対話しながら動かせる部分が多い曲。10年間デュオを続ける中で、音楽作りに工夫が必要な作品を多く演奏しているのですが、コダーイは実によくできた作りやすい曲です」

 ほかの曲は、両人の話をまとめてご紹介しよう。
 「ロッラの二重奏曲は明るく聴きやすい作品。イタリアらしい音色も魅力です。2003年作のタンギーのソナタはバルトークを彷彿とさせるアグレッシブな曲。チェロの名手クンマーの作品は、技巧的かつロマンティックです。梶俊男さんの『Hadeli』は、昨年11月に私たちが初演した作品。こちらは前衛的で音色が妙味です」

 会場は音響的な面で弦楽器デュオに最適な王子ホール。この点を含めて聴衆も楽しめる公演だ。
千裕「マニアックな曲をただ弾いているというのではなく、聴いてくださる方がいい時間を過ごせるコンサートにしたいと思っています。多彩な曲の違いや、2人でこれだけ幅があることができるという点を楽しんでもらえたら嬉しいですね」

 興味深いこのデュオ公演。ぜひとも生で体験したい。
取材・文:柴田克彦
(ぶらあぼ2021年11月号より)

印田千裕&印田陽介 デュオリサイタル 〜ヴァイオリンとチェロの響き Vol.10〜
2021.11/23(火・祝)14:00 王子ホール
問:マリーコンツェルト music@malykoncert.com
http://chihiroinda.com
https://yohsukeinda.com