大野和士がブリュッセル・フィルの音楽監督に就任

 指揮者の大野和士が、2022/23シーズンから、ブリュッセル・フィルハーモニックの音楽監督に就任することが発表された。
 これまで数多くの主要オーケストラや劇場の重責を担ってきた大野は、現在バルセロナ交響楽団の音楽監督を務め、国内では東京都交響楽団の音楽監督と新国立劇場オペラ芸術監督の任にもある。2002年から08年にかけて、ブリュッセルのモネ劇場(ベルギー王立歌劇場)の音楽監督を務めていた経緯もあり、大野にとって馴染み深い土地での今回のポスト就任が実現した。

(c)Herbie Yamaguchi

 ブリュッセル・フィルハーモニック(Brussels Philharmonic)は、ベルギー国立放送協会が1935年に創設した放送オーケストラを前身とする。2008年に現在の名称となった。同年就任したミシェル・タバシュニクを筆頭に、アレクサンダー・ラハバリ、フランク・シップウェイ、ヨエル・レヴィらが同楽団を率いた。現在の音楽監督は、2015年に就任したステファヌ・ドゥネーヴ。古楽から現代音楽まで幅広いレパートリーを持ち、特に2000年以降に作られた管絃楽作品の情報を収集すべく、ドゥネーヴと楽団はCffOR(Centre for Future Orchestral Repertoire)を立ち上げ、さらなるレパートリーの拡充に力を入れている。大野がそうした流れをどのように継承していくのか、注目される。
 就任発表後、初となる大野の登壇は、来月10月1日に楽団本拠地のブリュッセル Flagey、2日にブルージュの2公演が予定されている。

ALBAN BERG: VERONIKA & MANON
2021.10/1(金)20:15 Studio 4, Flagey(ブリュッセル)
2021.10/2(土)20:00 Concertgebouw Brugge(ブリュージュ)
大野和士(指揮)
ヴェロニカ・エーベルレ(ヴァイオリン)
♪シューベルト:「魔法の竪琴」序曲 ハ長調 D644
♪ベルク:ヴァイオリン協奏曲「ある天使の思い出に」
♪エルガー:独創主題による変奏曲「謎」op.36

大野和士のメッセージ

 1935年に創設されたブリュッセルを拠点とする同楽団は、正式名称をブリュッセル・フィルハーモニックといい、その後に交響楽団、管弦楽団等が付きません。それは、この名前により、前身であるフランダース放送交響楽団の時代に創設された放送合唱団をも傘下に収めるという理由によります。
 今でも、ドイツなどには、フィルハーモニック協会、フィルハーモニック・ソサエティという名称の元に、オーケストラと合唱団を抱えている例はよく見られ、この点が私にとっては、レパートリーの観点からもポジションをお引き受けする重要なポイントとなりました。放送オーケストラ、放送合唱団が一緒に存在することで、バロックの宗教曲から私たちの時代の音楽に至るまで、大変幅広いレパートリーをコンサートにおいて、また録音においても演奏することができるからです。
 また、この放送というツールが大きな比重を占める演奏団体だからこそ、コロナ禍における音楽文化を一般の聴衆、または子供達に様々な形で提供するために、重要な役割を果たし続けていることも私には大きな意味を持っています。
 このような時期のアポイントメントは、オーケストラ、合唱団と私とが、この困難な時代を超えて、今後音楽を通してどのような貢献を果たしていくことができるのか、その可能性を大いに引き出してくれると考えています。
 ブリュッセル・フィルと改名したのは、私がちょうどモネ劇場を去った2008年からです。モネを辞した際から、このオーケストラからは幾度か客演のお申し出をいただきましが、今年の1月まで実現しませんでした。しかし、この年月を経たからこそ、またこのような時だからこそ、私が再びブリュッセルでポジションを得るというのは、ある意味で運命的なことと感じています。ソノリティーをフレキシビリティーを併せ持つオーケストラであると、私はプレスリリースのインタビューで答えたところです。
 10月1日には、この1月の初顔合わせには果たせなかった、聴衆を伴う、また特別なディスタンスを取らなくなってからまだ日の浅いオーケストラと、エルガー、ベルク、シューベルトという異なる時代のプログラムを集めたコンサートを指揮します。責任と期待を胸に秘め、改めて新しい時代に立ち向かおうとするフィルハーモニックと私がここにいるのです。
AMATI ウェブサイトより転載)

大野和士 Kazushi Ono バルセロナ交響楽団および東京都交響楽団音楽監督、新国立劇場オペラ芸術監督。1987年、トスカニーニ国際指揮者コンクール優勝。これまでザグレブ・フィル音楽監督、東京フィル常任指揮者(現・桂冠指揮者)、カールスルーエ・バーデン州立劇場音楽総監督、モネ劇場(ベルギー王立歌劇場)音楽監督、アルトゥーロ・トスカニーニ・フィル首席客演指揮者、フランス国立リヨン歌劇場首席指揮者等を歴任。フランス批評家大賞、朝日賞など受賞歴も多数。文化功労者。フランス政府より芸術文化勲章「オフィシエ」受章、リヨン市より特別メダル授与。19年、大野発案によるオペラ・プロジェクト「オペラ夏の祭典 2019-20 Japan↔Tokyo↔World」《トゥーランドット》では高い評価を得た。同年、新国立劇場にてワーグナー《ワルキューレ》、ビゼー《カルメン》、渋谷慶一郎《スーパーエンジェル》(世界初演)を指揮し話題となった。現在、ヨーロッパと日本を拠点に国際的に活躍。