久末 航(ピアノ)

前向きな気持ちを届ける音楽を目指したい

(c)Kei Uesugi

 ベルリンを拠点に活動するピアニストの久末航が、Hakuju Hallのリクライニング・コンサートに出演。ショパン、シマノフスキ、シューマンによるプログラムを披露する。

 「まずシマノフスキの『メトープ』を弾きたいと思い、そこに同じポーランドの作曲家としてショパンを合わせたかたちです。『メトープ』は演奏される機会が少ないですが、ギリシャ神話からインスピレーションを得た傑作。音が多く緻密に書かれていて、密度の高い音楽が流れます。以前、サティの『ジムノペディ』とあわせて取り上げたこともあるのですが、組み合わせる作品によっていろいろな面を見せてくれるので、今回はショパンとどう響き合うのか、自分でも楽しみです」

 続けて演奏するのは、長らく弾く機会をうかがっていたという、シューマンのピアノ・ソナタ第1番。

 「4楽章それぞれシューマンらしいキャラクターのコントラストがはっきりしており、3楽章にはとくに彼のユーモアが盛り込まれていて、とても惹かれます。日本にいた頃はシューマンを弾く機会があまりなかったのですが、ドイツ語の生活をしているうちに、ドイツの作曲家をより身近に感じるようになりました。例えばシューマンが愛読していたというジャン・パウルの『Flegeljahre(生意気盛り)』に書かれているユーモアは、皮肉がきつく、人やモノの例え方も奇抜で、日本人の感覚とはまた全然違う。シューマンの音楽にも多く通じるものがあると思います」

 滋賀県大津市に生まれ、普通高校卒業後すぐドイツに留学、現地での暮らしも9年目となる。高校生までは理数系への関心が強く、音楽の道は意識していなかったというが、良いと思った音楽を届けたいという欲求は幼少期から持っていたようだ。

 「ピアノを習う前の3、4歳の頃、ボタンを押すと音が鳴るおもちゃのピアノを持って、三輪車で一軒一軒ご近所をまわり、インターフォンを通して音楽を聴かせていたそうなんです(笑)。昔から、人に聴いてもらいたいという気持ちは強かったみたいですね」

 11月にはリサイタルに先立ち、デビューアルバムもリリースされる。コロナ禍で大変な時代だが、音楽を通じて届けたいのはどんなことなのだろうか。

 「音楽は娯楽で生活必需品ではないという考えもあるかもしれませんが、精神的には、この目に見えないものから大きな力を受け取っている人がたくさんいると思います。これから世の中がどうなるのかは誰にもわかりませんが、そんな目に見えないものも大切にされる時代であってほしいですね。今度のリサイタルでは、すばらしいホールとピアノで演奏させていただくので、初めて聴いた曲だけれど知ることができてよかったとか、なにか前向きなものを感じていただける音楽を目指したいです」
取材・文:高坂はる香
(ぶらあぼ2021年10月号より)

第162回 リクライニング・コンサート
久末 航 ピアノ・リサイタル
2021.11/26(金)15:00 19:30 Hakuju Hall
問:Hakuju Hallチケットセンター03-5478-8700 
https://www.hakujuhall.jp

SACDハイブリッド『ザ・リサイタル The Recital』
アールアンフィニ
MECO-1067 ¥3300(税込)
2021.11/17(水)発売