鈴木大介(ギター)

満を持して放つ究極のスタンダード名曲集

(c)Kaori Nishida

 ソロ活動も四半世紀を超える名ギタリスト・鈴木大介が、50歳の節目に新アルバム『ギターは謳う My Guitar’s Story』をリリースする。これは、武満徹の「ギターのための12の歌」をはじめ、ジャズやシャンソン、ピアソラの作品等を22曲収録した珠玉のポピュラー名曲集だ。

 鈴木は今回「まず『12の歌』を録音したかった」と語る。1977年に武満が「イエスタデイ」等のビートルズ・ナンバーやポピュラー名曲、愛唱歌等、好きな曲をギター用に編曲した同曲集は、鈴木のデビューのきっかけとなった作品であり、(稀少な)全曲録音もこれまで二度行っている。

 「1995年ザルツブルク留学を終える記念に『12の歌』から4曲を自主録音しました。すると帰国後、日本ショットがバラで出ていた絶版の楽譜を1冊にまとめたのですが、現役のCDがない。そこにたまたま僕のデモ・テープを聴いた武満さんが『この人に全部弾いてもらいたい』と言ってくださったのです。これを機にプロ活動がスタートし、96年に全曲を録音。繰り返しを省いていたので2000年に再録音しました。しかし20年が経ち、毎年全曲演奏を行うなかで表現が変化していますし、昨年武満さんの生誕90年、今年没後25年で弾く機会も多かった。そこでハイレゾ等の技術向上にも対応すべく新録音を行いました」

 同曲集の魅力は尽きない。
 「例えば、ビートルズ好きの人が『ここが好き』と思うポイントが押さえられている上に、アートとして抽象化されている。ジャズやポピュラーのエッセンスが取り入れられているので、クラシック畑の人が考えるありきたりのものではなく、最低限の歌い回しで歌詞の意味がわかるような深さがあります。ですからジャズ関係者の方が反応がいいですし、本当の価値はボーダーレスな音楽が出尽くした今の方がよくわかると思います」

 さらに「武満さんが楽譜を直接送ってくれた『ラスト・ワルツ』」が本作の素敵なラストを飾り、他の曲も「武満さんと何らかの形で関連した作品」になった。

 「大きく分けて僕自身がアレンジしたジャズのスタンダードとラテン的な激しい曲があります。まずデューク・エリントンは武満さんがニューヨーク滞在中に教わりたかった音楽家で、ピアソラは大好きだった作曲家。『ラヴ・ワルツ』も武満さんが観たエリントンのライブと繋がりのあるナンバーです。『聞かせてよ愛の言葉を』は武満さんが勤労動員の際にレコードを聴いて音楽をやりたいと思ったという曲。あと僕自身の課題として編曲した『マイ・ワン・アンド・オンリー・ラヴ』とディアンスが編曲した『群衆』『愛の讃歌』は単純に録音したくて入れましたが、スタンダードですから武満さんも当然ご存じだったと思います」

 本作のタイトルが「ギターは歌う」ではなく「謳う」であるのもポイントだ。
 「ギターがただメロディを『歌う』のではなく、人々の心や感情の多様性に寄り添える楽器であることを『謳って』います。なのでギターの持つエモーションの幅広さを聴いていただきたいですね」

 また本作は3本のギターが使い分けられており、「『12の歌』は超名器の『イグナシオ・フレタ・エ・イーホス』で録音したかった。同楽器での全曲録音は貴重だと思う」との由。これも聴きものだ。
 「『日本に生まれたギタリストが紡ぎ出す音』を強く意識している」と話す鈴木。「これまでの自分の名刺代わり」とも語る本作を聴いて、その真価を堪能したい。
取材・文:柴田克彦
(ぶらあぼ2021年10月号より)

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