広上淳一(指揮) 日本フィルハーモニー交響楽団

勢いに乗るベテランと新鋭が描くブルックナーとドヴォルザーク

 広上淳一は、いま最も幅広く活躍している指揮者といって差し支えないだろう。だが、これまで彼のブルックナーを聴ける機会はほとんどなかった。それが6月の日本フィル東京定期でついに実現する。選ばれたのは第6交響曲。60分程度、2管編成、ブルックナーとしては大規模ではない楽曲だが、他のどの番号とも違うユニークな楽想と、絶美の緩徐楽章をもつ魅力作だ。古典派からロマン派までスケールの大きな名演を連続している広上が、まさに満を持して臨むブルックナー。荒々しさと透明感が両立する第6番で、どんな世界を構築してくれるのか。

 公演前半は変更になり、ドヴォルザークのヴァイオリン協奏曲に。ソリストはヴィエニャフスキ国際ヴァイオリンコンクール第2位などの入賞歴をもち、国内外で活躍する小林美樹。広上&小林&ドヴォルザーク、既視感が…そう、3月の東京シティ・フィル定期で同じ組み合わせが実現したばかり。再演は苦肉の策? いえいえ、とんでもない! それどころか、3月公演は同曲の類まれなる快演で、その成果をより広く示したいという意欲の表れだろう。小林はフレッシュな美音とアグレッシブな名技が際立ち、同曲の魅力を万全に引き出す。特筆したいのは広上の指揮ぶりで、小林との丁々発止のやりとりは抜群、オーケストラからはかつてないほどの表現やメッセージを抉り出す。特に低弦のビートを効かせまくった舞曲的場面の楽しさは、聴きながら(観ながら)思わず笑顔になってしまうこと請け合い。2曲とも聴きどころ満載、必聴の演奏会だ。
文:林 昌英
(ぶらあぼ2021年6月号より)

第731回 東京定期演奏会〈春季〉
2021.6/11(金)19:00、6/12(土)14:00 サントリーホール
問:日本フィル・サービスセンター03-5378-5911 
https://japanphil.or.jp