俊英の思いが込められた、個性輝く鮮やかなプログラム
休憩なしの1時間という短い時間の中に、様々な色彩を持つ音楽を集めて贈るHakuju Hallの「リクライニング・コンサート」。3月26日に登場するのは、若手ヴァイオリニストの中でも特に注目を集める黒川侑だ。1時間のプログラミングは難しくないのかと尋ねたところ、「僕はiTunesなどで、色々な曲を並べたプレイリストを作ったりするのが好きで、特に難しさは感じませんでした。今回も楽しんでプログラミングができました」と“現代っ子”らしい(?)答えが返ってきた。
そのプログラムだが、まずストラヴィンスキーの「イタリア組曲」から始まり、中心となるのはブラームスのヴァイオリン・ソナタ第1番「雨の歌」だ。
「ストラヴィンスキーは2021年が没後50年となるので、必ず入れようと思いました。ブラームスは大好きな作曲家。ヴァイオリン・ソナタは3曲とも好きですが、特に第1番の『雨の歌』は3曲の中で最も規模が大きい作品で、とてもやりがいがある曲なので選びました」
ブラームスには特別の思い入れがあるようだ。
「例えばシューマンの作品ならば“親密さ”が感じられると思いますが、ブラームスには一種の“つらさ”を感じます。作品の中に書き込まれたブラームスの深い感情に共感する部分があり、それがひたひたと伝わってくるからこそ“つらさ”を感じるのだと思います。それが演奏を通して表現できれば嬉しいです」
このコンサートは3月なので、ちょうど春先に降る繊細な雨のように、聴き手の心のひだに触れる演奏になることを期待したい。
近現代の作品も好きだと語る黒川。ストラヴィンスキーもシマノフスキ(「アレトゥーサの泉」)も興味深い。
「ストラヴィンスキーの『イタリア組曲』はオリジナルが管弦楽で、編曲作品です。生き生きとしたバロック音楽を元にしながらモダンさが溢れていて、その表現の仕方がとても良くできているなと感じます。シマノフスキも実は組曲『神話』の中の1曲で、やはりモダンさがよく表れた作品だと思います」
そして、シューマンの名曲「トロイメライ」もある。
「巨匠の録音も多く、シンプルでも様々な捉え方のできる奥の深い作品だと思っていたので、ここで演奏したいと思いプログラムに入れました」
ピアノは、こちらもドイツなどで活躍する注目の若手・久末航が受け持つ。ふたりの共演は今回が初めて。Hakuju Hallの豊かな響きの中で、若いふたつの個性の対話が楽しめるコンサートになるだろう。
取材・文:片桐卓也
(ぶらあぼ2021年2月号より)
第157回 リクライニング・コンサート 黒川 侑 ヴァイオリン・リサイタル
2021.3/26(金)15:00 19:30 Hakuju Hall
問:Hakuju Hallチケットセンター03-5478-8700
https://www.hakujuhall.jp