鈴木秀美(指揮) 新日本フィルハーモニー交響楽団

今こそ耳を傾けたい楽聖の迫真の響き


 以前、ある専門家が「ベートーヴェンの本当の生誕250年は、2020年12月16日(有力視される誕生日)から21年12月15日までの一年なんだよ」と言っていた。2020年が不完全なベートーヴェン・イヤーだっただけに、この考えは格好の仕切り直しになるのではないだろうか。そんな真の(?)記念イヤーの3月に新日本フィルの定期演奏会「ルビー」で披露されるのが、ほかならぬベートーヴェンの三重協奏曲と交響曲第5番「運命」である。

 指揮は鈴木秀美。チェロ奏者、指揮者として古楽畑で活躍し、近年は各地のモダン・オケに招かれると同時に山形交響楽団の首席客演指揮者も務める名匠だ。古楽に造詣の深い彼が今回いかなるベートーヴェンを聴かせるか? がまずは注目点。さらには、約3年前に脳梗塞で倒れた鈴木が、不安の中で復帰した際の演目が「運命」だったというから、ベートーヴェンの力や精神をよりリアルに捉えた、他とはひと味異なる名演が期待されるし、苦悩の現況の中で彼が振る「運命」がどう響くのか? 我々は心して耳を傾けたい。

 三重協奏曲のソリストは、ソロ・コンサートマスターの崔文洙(チェ・ムンス)、首席チェロ奏者の長谷川彰子に、ハンガリーに拠点を置く崔仁洙(チェ・インス/文洙の兄)のピアノが加わった、同曲で重要な好バランスの布陣。彼らの妙技に鈴木のリードが相まって、こちらも新鮮かつ密度の濃い演奏が展開されるに違いない。

 鈴木秀美指揮の新日本フィルといえば、17年6月のハイドン「天地創造」の生気に富んだ快演を思い出す。今回はそれと同様、いやそれ以上に迫真的な音楽が待っている。
文:柴田克彦
(ぶらあぼ2021年2月号より)

定期演奏会 ルビー〈アフタヌーン コンサート・シリーズ〉第38回
2021.3/26(金)、3/27(土)各日14:00 すみだトリフォニーホール
問:新日本フィル・チケットボックス03-5610-3815
https://www.njp.or.jp