ファジル・サイ(ピアノ/作曲)

異能の音楽家が自作のシンフォニーついて語る

C)Marco Borggreve

 類まれなる才能を発揮し、ピアニストとして作曲家として世界各地で活発な活動を展開しているファジル・サイが、自作の交響曲第2番「メソポタミア」の日本初演を「ファジル・サイ&新日本フィルハーモニー交響楽団」で行う。サイは同公演でベートーヴェン「皇帝」のソリストも務め、「メソポタミア」のピアノパートも弾く。指揮はトルコ出身のイブラヒーム・ヤズィジ。
 交響曲第2番は2011/12シーズンに書かれたもので、10章で構成された約55分の大作。
「メソポタミアの文化、歴史、宗教、戦争などを音で表現した作品です。私はトルコ在住ですが、この地域は日々さまざまな脅威にさらされている。昔からメソポタミアは偉大な文化や歴史や伝統を誇っていましたが、現在は戦争やテロが氾濫し、人々は心安らぐ日々からはほど遠い過酷な生活を強いられています。私は音楽で平和を希求したかった。自分がいま何を感じ、何を求め、何ができるかを考えたとき、自分の感情をすべてひとつのシンフォニーに託したいと思ったのです」
 作品には珍しい楽器がふんだんに使用され、その一つひとつに意味が込められている。
「たとえばテルミン。電磁波によって幻想的で摩訶不思議な音が出る楽器ですが、私はこれを“天使の声”として用いた。戦争の記録のような作品にひと筋の光が必要だったからです。ほかにもトルコの打楽器クドゥムやあまり知られていない楽器が登場してきます。各々に役割が課せられている。日本のみなさんが新たな体験をし、少しでもメソポタミア地方の現実に目を向けてくれたらと願っています。ベートーヴェンもチャイコフスキーもショスタコーヴィチも、みな戦争の悲惨さを音楽で訴え、自己の感情を作品で表現しました。私も強い感情をこの曲に込めています」
 ファジル・サイはさまざまなところから委嘱を受けたり、自身が演奏するために年に4〜5曲のペースで新たな作品を世に送り出している。すでに発表した約80曲の作品のうち、管弦楽作品は40曲ほどにものぼる。
「作曲はなんといっても経験が物をいう。特にオーケストラ作品は、各楽器の音が自分のなかにすべて響いてくるまでは書けない。いまも協奏曲や器楽曲などを書いていますが、自分の体のなかにCDが回っているみたいなのです。そうなって初めて楽譜に起こすことができる。私は子どものころから人生すべて音楽。音楽以外のことには興味がないし、他のことに費やす時間もない。でも、ドビュッシーとサティを組み合わせた新譜を出したようにピアノの演奏はもちろん優先事項。ピアノに向かっているといろんなアイディアが湧き出てくる。私の創造の源泉かも。いまは日本の歴史にも目が向いています」
取材・文:伊熊よし子
(ぶらあぼ2018年11月号より)

ファジル・サイ&新日本フィルハーモニー交響楽団
2018.11/9(金)19:00 すみだトリフォニーホール
問:トリフォニーホールチケットセンター03-5608-1212 
http://www.triphony.com/