一級の歌手たちと、バッティストーニの劇的かつ緻密な指揮
スペクタクルなオペラの代表格のように思われている《アイーダ》だが、実は作品のキモは若いカップルの静かな死にある。ただし、静けさを際立たせるためにも、「凱旋の場」をはじめスペクタクルな場面が輝いていなければいけない。そういうメリハリをつけるのに長けた指揮者の最右翼がアンドレア・バッティストーニである。彼の《アイーダ》が聴ける。それも日本で。まさに事件だ。
インタビューのたびに、バッティストーニは「《アイーダ》は自分にとって特別に愛着がある」と語った。故郷ヴェローナの野外劇場の看板演目で、子どものころから馴染んでいるのに加え、50代後半のヴェルディの円熟した手になる洗練された音楽がある。そして華やかさと静けさの対比が絶妙――。そんな内容で、事実、彼が指揮すると華麗な場面がいっそう華やぎ、静かな場面は凛として美しい。最近は細部がさらに精妙かつ雄弁になってきた。要は、バッティストーニはいま《アイーダ》との相性が抜群にいい。そういう組み合わせは、なかなか望めないものだ。
作品との相性がいいのは、歌手もそうだ。アイーダ役は、ヴェローナでも絶賛されているモニカ・ザネッティンと、“ヴェルディ”の声と認められた木下美穂子のダブル。ラダメス役は福井敬と西村悟という日本を代表するスター・テノール。アムネリス役は清水華澄とサーニャ・アナスタシアという劇的だが緻密な心理描写も得意な二人のメッゾ。ローマ歌劇場の伝統的で壮麗な装置も相まって、《アイーダ》の魅力が全開となるまたとない機会だといえよう。
文:香原斗志
(ぶらあぼ2018年10月号より)
2018.10/20(土)、10/21(日)各日14:00 神奈川県民ホール
問:チケットかながわ0570-015-415
http://www.kanagawa-kenminhall.com/aida/
他公演
2018.10/7(日)、10/8(月・祝)札幌文化芸術劇場hitaru(両日とも完売)
2018.10/24(水)兵庫県立芸術文化センター(完売)
2018.10/28(日)大分/iichiko総合文化センター(097-533-4004)