オンド・マルトノってどんな楽器?

文:大矢素子(オンド・マルトノ奏者)読響「月刊オーケストラ」より

マルトノ・スピーカー

オンド・マルトノ・・・この一風変わった楽器の名前をご存知の方は、どのくらいいらっしゃるだろうか。頭のなかで「音頭丸殿」と漢字変換してしまうかもしれない。それくらいマイナーな楽器であると理解している。オンド・マルトノは今から100年くらい前にフランスで考案された電子楽器である。その姿形は一見小型のオルガン風。しかし、周囲には独特のかたちのスピーカー(=写真)が並ぶ。アクリル素材のお洒落な譜面台からは、アール・デコの時代の美意識が伝わってくる。

この楽器を考案したのは、モリス・マルトノという電気技師でチェロ奏者でもあった。第一次世界大戦時、電気技師として戦地に派遣された彼は、発明されたばかりの無線の音を聴き、音楽を感じたようだ。「この仕組みを利用して、新しい楽器を作ることができるのではないか」……戦場の道具が音楽を奏でる楽器へと生まれ変わった瞬間である。

オンド・マルトノの演奏法は、二通りある。鍵盤を弾く方法と、鍵盤の前にはられたワイヤーをスライドさせる奏法。後者では、チェロのような、人の声のような、暖かみのある音が作り出される。メシアンを筆頭に、ジョリヴェ、オネゲル、近藤譲など「現代音楽」がレパートリーである。

電子楽器ではあるが、音の高さや音色を、奏者がリアル・タイムで作り上げねばならない。舞台に置かれた特殊なスピーカー群も、その場の音環境に合わせて音の配分を調整する。このように、複合的な音作りの要素をその場でコントロールすることこそオンド・マルトノ演奏の難しさであり、醍醐味であると考える。言葉で説明すればするほど謎が深まるであろう、この楽器。フランスの音楽美学者ジゼル・ブルレが「魂を奏でる電子楽器」と評したその音を、ぜひ生で体感していただきたい。

※今回の公演では、ヴァレリー・アルトマン=クラヴリー、大矢素子、小川遥の3人が演奏します。

オンド・マルトノ3台による稽古

ヴァレリー・アルトマン=クラヴリー
パリ国立高等音楽院に学び、1973年にデビュー。ベルリン・フィル、ロンドン響、ボストン響、ニューヨーク・フィルなど世界の一流オーケストラと共演を重ねている。「アッシジの聖フランチェスコ」には初演から参加。

 

 

大矢素子
イギリス生まれ。東京芸術大学在学中に原田節に学んだ後、渡仏し、パリ国立高等音楽院でV.アルトマン=クラヴリーに師事。帰国後は演奏だけでなく研究者としても活動し、レクチャーやテレビ・ラジオ出演などで広く知られる。

 

 

小川遥
神奈川県生まれ。15歳で渡仏、パリ国立高等音楽院でピアノ、室内楽を一等賞で卒業。その後オンド・マルトノをV.アルトマン=クラヴリーに師事し修士号を取得。フランス国内外のコンサートやフェスティバルで活躍中。


【Information】

読響創立55周年記念
メシアン:歌劇《アッシジの聖フランチェスコ》(全曲日本初演/演奏会形式)

指揮:シルヴァン・カンブルラン
管弦楽:読売日本交響楽団
合唱:新国立劇場合唱団、びわ湖ホール声楽アンサンブル

出演
天使:エメーケ・バラート
聖フランチェスコ:ヴァンサン・ル・テクシエ
重い皮膚病を患う人:ペーター・ブロンダー
兄弟レオーネ:フィリップ・アディス*
兄弟マッセオ:エド・ライオン
兄弟エリア:ジャン=ノエル・ブリアン
兄弟ベルナルド:妻屋秀和
兄弟シルヴェストロ:ジョン・ハオ
兄弟ルフィーノ:畠山 茂

*出演を予定していた兄弟レオーネ役のフィリップ・スライ(バリトン)は、体調不良のため出演できなくなりました。代わりに、フィリップ・アディスが出演します。(2017.11.10更新)

2017.11/19(日)、11/26(日)各日14:00 サントリーホール
問:読響チケットセンター0570-00-4390
http://yomikyo.or.jp/
2017.11/23(木・祝)13:00 びわ湖ホール
問:びわ湖ホールチケットセンター077-523-7136
http://www.biwako-hall.or.jp/