沼尻竜典(補筆作曲)

日本&イタリア総合芸術の壮大なる融合〜『ジャパン・オルフェオ』

©RYOICHI ARATANI
©RYOICHI ARATANI
 日伊修好150周年の今年、音楽界でも記念の催しが少なくない。なかでも10月に予定されている『ジャパン・オルフェオ』は、その目玉となりそうな公演だ。イタリア・バロックオペラの傑作であるモンテヴェルディの《オルフェオ》を日伊の合同チームで上演する企画なのだが、合同チームの中身が贅沢かつユニーク。《オルフェオ》という作品を媒体に、日本とイタリアの伝統芸能を集大成しようという、かつてない試みなのである。これが日本デビューとなるイタリアの若手バリトン、ヴィットーリオ・プラートをはじめとする選り抜きの歌手陣や、日本の古楽演奏家の代表選手たちを中心に編成されたオーケストラに加え、能楽の宝生流の家元である宝生和英や、日本舞踊の藤間流の家元である藤間勘十郎など、そうそうたる顔ぶれが舞を披露するのだ。
 とはいえ音楽面での最大の話題は、オペラ《竹取物語》が絶賛されるなど作曲家としても大活躍の指揮者沼尻竜典が、《オルフェオ》初演時の第5幕を復元することだろう。(指揮はイタリアのアーロン・カルペネ)
「現在上演されている《オルフェオ》は、1609年に出版された楽譜に基づき、オルフェオの父である芸術の神アポロが息子を天上に引き上げる結末になっていますが、1607年の初演時は、オルフェオが、彼に復讐を誓うバッカスの巫女たちに取り囲まれるという、原典の神話に近い悲劇的な終わり方になっていました。今回はその『幻の5幕』と言われている部分に音楽をつけますが、日伊修好150周年というお祝いの公演でもあるので、作品の本質を損なわずに、最後に希望が感じられるものにしたいと思っています。今回、邦楽の大家の方々が加わるので、加筆部分にも邦楽のパートが入りますが、その方たちが即興できるような余裕も残したいと思っています」
 主催者によれば、今回《オルフェオ》がとりあげられた理由は、ギリシャ神話をベースにした物語が『古事記』に出てくるイザナギとイザナミの物語と共通点があるからだという。沼尻にとって、《オルフェオ》というオペラの魅力はどこにあるのだろう。
「音楽そのものがとても魅力的です。プロローグの最後のセクションなどが単純な音の組み合わせなのにあれほど印象的なのは、まさに天才。また、いろいろな演出が可能な懐の深いオペラで、その点ではワーグナーの作品に通じるところもありますね。来年はモンテヴェルディの生誕450年でもあるので、そのお祝いの意味もこめた上演にしたい」
 今回の公演は、「イタリアと日本のいいところを持ち寄って、面白いものを作ろうというお祭り」だという沼尻。公演場所には鶴岡八幡宮の野外特設会場も含まれ、イタリアン・ファッションの担い手のひとり「ミッソーニ」が衣装を担当するのも、そんな“お祭り”だからこそ。かつてない総合芸術が体験できる、貴重な機会になりそうだ。
取材・文:加藤浩子
(ぶらあぼ 2016年9月号から)

10/7(金)、10/8(土)各日18:00 鎌倉/鶴岡八幡宮特設会場
10/12(水)、10/13(木)各日19:00 東京芸術劇場 コンサートホール
問:ヴォートル・チケットセンター03-5355-1280
『ジャパン・オルフェオ』公式ウェブサイト
http://www.japanorfeo.com