歌、詩、日本舞踊――小林沙羅が多彩な表現で魅せるステージ

©Hidekazu Maiyama

 小林沙羅ほど多才なソプラノはいない。じつは彼女の才は、やわらかいが凛とした美声による歌心あふれる歌唱にとどまらない。10歳から日本舞踊の研鑽を積み、バレエの経験も長く、学生時代は詩作にも興じた。そうしたすべてが小林の歌唱の豊かさを担保しているが、デビュー20周年を記念したリサイタルでは、彼女の多彩さを、まさに幅広く味わえる。小林自身、「ずっとやりたかったことを実現する機会」と語る。

 前半は純粋に歌。新しいアルバム『献呈〜あなたに捧げるうた〜』の収録曲が歌われる。シューベルト、シューマン、R.シュトラウスからドビュッシー、フォーレ、そして山田耕筰までにおよぶ歌曲には、これまでのさまざまな感謝や、いま世界で困難な状況に置かれている人たちへの思いが込められている。異色なのは米津玄師の「地球儀」。また、Coba作曲の「あなたへ」は世界初演で、作詞は小林である。

 それだけでも「幅広い」が、後半はまさに「多彩」で「多才」。日本舞踊の名作のテキストを、小林自身がわかりやすく美しい現代語に置き換え、信長貴富が作曲した新作モノオペラ《鷺娘》が上演される。もちろん小林は歌うだけでなく、藤間勘十郎の振付で得意の舞踊も披露する。

 「私のなかにはクラシック音楽の歌手以上の、もっと幅広い私がいて、身体表現から詩の世界まで伝えたいことがあふれています」と語る小林。だからリサイタルは「総合芸術」の様相だが、それも彼女の才あってのことだ。

文:香原斗志

(ぶらあぼ2026年11月号より)

デビュー20周年記念 小林沙羅 ソプラノ・リサイタル
2026.11/29(日)13:00 17:30 サントリーホール ブルーローズ(小)
問 ジャパン・アーツぴあ0570-00-1212
https://www.japanarts.co.jp


香原斗志 Toshi Kahara

音楽評論家。神奈川県生まれ。早稲田大学卒業、専攻は歴史学。イタリア・オペラなどの声楽作品を中心にクラシック音楽全般について執筆。歌声の正確な分析に定評がある。日本ロッシーニ協会運営委員。著書に『イタリア・オペラを疑え!』『魅惑の歌手50 歌声のカタログ』(共にアルテスパブリッシング)など。歴史評論家の顔もあり、近著に『お城の値打ち』(新潮文庫)。