
端正な、いいピアニストだと思った。ミシェル・ダルベルトがシューベルトやモーツァルトを弾いて、清新な息吹きを伝えていた若き日々のことだ。フランスのピアニストがとかく個性に流れがちななか、誠実な演奏で、明快な構築をていねいに聴かせていたからである。
クララ・ハスキル・コンクールで1975年に優勝して、それだけにモーツァルトを嘱望する聴き手も多かっただろう。ペルルミュテールに師事したパリ国立高等音楽院時代には、ショパンに夢中になることも、フランス音楽をことさら探求することもなく、モーツァルト、シューマン、リストに真摯に取り組んだと語ってもいた。
それが近年になるにつれ、ダルベルトはヴィルトゥオージティを力強く志向し、言ってしまえばマッチョなプログラムに腕前を揮うのを好んできたとみられる。シューベルト最後のソナタを弾いたときにも、そうした性格を濃厚に覚えて、ちょっとびっくりした。
70歳を前にした昨年のリサイタルも、テーマに据えたのはヴィルトゥオージティ礼讃、で盛りだくさん。それがこの秋は一転して、オール・モーツァルトでのリサイタルが組まれた。
幻想曲ハ短調 K.475に始まり、ソナタはイ短調 K.310と「トルコ行進曲付き」のイ長調 K.331から、イ短調ロンド K.511、デュポールのメヌエットによるニ長調変奏曲 K.573を経て、再びハ短調のソナタ K.457で結ばれる円環である。
歳月がなにをもたらし、名手はどう変わったのか、変わらないのか。結局はなにも想像せず、虚心坦懐に聴きに行くのがいいのだろう。
文:青澤隆明
(ぶらあぼ2026年11月号より)
ミシェル・ダルベルト ピアノ・リサイタル
2026.11/26(木)19:00 浜離宮朝日ホール
問 パシフィック・コンサート・マネジメント03-3552-3831
https://www.pacific-concert.co.jp

青澤隆明 Takaakira Aosawa
書いているのは音楽をめぐること。考えることはいろいろ。東京生まれ、鎌倉に育つ。東京外国語大学英米語学科卒。音楽評論家。主な著書に『現代のピアニスト30—アリアと変奏』(ちくま新書)、ヴァレリー・アファナシエフとの『ピアニストは語る』(講談社現代新書)、『ピアニストを生きる-清水和音の思想』(音楽之友社)。『ショスタコーヴィチを語る』(青土社)で、亀山郁夫氏と対談。そろそろ次の本、仕上げます。ぶらあぼONLINEで「Aからの眺望」連載中。好きな番組はInside Anfield。
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