世界最高峰の学びの場、その響きを日本で――クロンベルク・アカデミー来日公演

© Patricia Truchsess

取材・文:林 昌英

 フランクフルト近郊のクロンベルクという町で、1993年に創設された「クロンベルク・アカデミー」。世界最先端を行く充実の指導と学びの環境で、世界中から俊才たちが集い、多くの名演奏家を輩出してきた。日本でその成果を体感できる機会として、2023年の初の日本ツアーで東京と大阪公演が実現したのに続き、今年6月にも同地で公演が開催される。一般財団法人小野文化財団の代表理事で、同アカデミー日本友の会も主宰する小野ひとみに、その歴史と意義をきいた。

左より:小野ひとみ、ライムント・トレンクラー © Patricia Truchsess

小野 クロンベルク・アカデミーは1993年、自身がチェリストであるライムント・トレンクラーさんが創設しました。通常の音楽大学の枠を超えるような才能のある若い奏者たちを、一流の音楽家として、そして音楽界をリードしていくアーティストとして育てる、特別な教育機関が必要と考えて、クロンベルクという小さな町で始めました。

 初めは専用の建物もなく、町の施設の部屋を借りてのスタートで、町のあちこちでレッスンが行われたことで、町ぐるみで応援してくださるようになりました。最近、念願だった立派なコンサートホール、カザルスフォーラムとそれに併設する校舎が完成して、アカデミーのキャンパスが確立してきています。

 ここの学生はすでにスターといえるプレイヤーばかりです。でも実は、そのような人たちこそ、教わることができる場が必要で、そういう意味で貴重なアカデミーです。弦楽器はソリストばかりではなく、アンサンブル、室内楽、オーケストラというフィールドでも役割を果たすことが要求されます。そこで、クレーメル先生とかバレンボイム先生とかアンドラーシュ・シフ先生といったすばらしい方々が指導に来られて、多彩な講座を開講しているわけです。

左:ギドン・クレーメル © Andreas Malkmus

――初のアカデミー日本ツアーは、2023年のサントリーホール「チェンバーミュージック・ガーデン」と大阪のワキタ コルディアホールでの開催でした。

小野 それまでアカデミーのツアーはヨーロッパの主要都市やニューヨークで開催してきましたが、日本でもぜひということになり、サントリーホール館長の堤剛先生もアカデミー初期の頃に指導されていたこともあり、東京はぜひサントリーホールで開催しましょうと。

 大阪公演は、初回に続き、ワキタ コルディアホールで行います。そして公演の前には、ツアー全体のレパートリーのリハーサルのために、4日間もホールを提供していただきます。今回は兵庫県立芸術文化センターの「スーパーキッズ・オーケストラ」のメンバー数名を公演にご招待して、リハーサルも見学できるようにします。

 何より、このアカデミーで仲間ができて、常設の団体とは違った、ここだけの勢いのあるアンサンブルが実現する。これがクロンベルク・アカデミー・オン・ツアーの魅力だと思います。他では聴けない、唯一無二のすごいサウンドが響きわたります。

――ここからヴァイオリニストのMINAMI(吉田南)が対談に加わった。MINAMIはすでにソリストとして活躍しながら、2024年秋からクロンベルク・アカデミーに参加。さらに25年秋からベルリン・フィル第1ヴァイオリン奏者としてトライアルが始まり、同楽団日本ツアーにも参加して話題になった。アカデミーについて語ってもらった。

MINAMI © Yoshihiro Yoshida

MINAMI クロンベルク・アカデミーに参加する前はアメリカの大学にいましたが、卒業後はドイツで、できればぜひクロンベルクという環境で、ミハエラ・マルティン先生に教わりたいという気持ちが強く、受験を決めてドイツに渡りました。 

 実は入学した次の日からアルフレート・ブレンデル先生のマスタークラスがあって、私はもちろん参加予定ではなかったんですが、室内楽の急な代役で参加することになりました。もう本当に入学直後から「クロンベルクってこんな貴重な経験ができるんだ」と体感したわけです。

――ブレンデルさんは25年に亡くなられたので、本当に晩年の貴重なタイミングでしたね。強烈なエピソードで、このアカデミーのすごさも象徴しています。

MINAMI 普段のミハエラ先生のレッスンが素晴らしいのはもちろんですし、毎週のようにいらっしゃるゲストの講師の方のマスタークラスを受けられて、ソロだけじゃなくて室内楽も学べるし、本当にすばらしい学校だなとずっと感じています。

小野 最近は毎週のように学生のコンサートがあって、MINAMIさんも出演されるんですよね。学生が演奏をする場があり、それが評判になりお客様がいらっしゃる。クロンベルクという小さな町で日々コンサートがあって、世界の室内楽の中心にこのアカデミーがあるというのが創設者の夢でもありますが、だいぶ近づいてきているような感じがします。

MINAMI ここでのコンサートはリサイタルという形でも、プログラムの中に一つは室内楽を入れないといけないんです。本当に室内楽に力を入れているなという印象があります。

ミハエラ・マルティン © Patricia Truchsess

――今井信子先生はじめ、先生方と演奏することはいかがですか?

MINAMI クロンベルクじゃなければおそらく叶わない共演で、本当に光栄です。

小野 今井先生は去年退官なさっていて、クロンベルクという枠では今回が最後になる可能性もあります。しかも日本公演では、今井先生にマルティン先生、チェロのフランス・ヘルメルソン先生と、以前ミケランジェロ・クァルテットを組んでいらっしゃったレジェンド級の3人の先生が揃います。そこにMINAMIさんらが一緒に弾くという、世界で唯一無二のコンサートになると思います。

MINAMI 演奏会はもちろん楽しみですが、そのリハーサルなどで先生たちとどういうディスカッションができるのかも、すごく楽しみにしているところです。

フランス・ヘルメルソン © Dan Hannen

――この機会にMINAMIにソロ、室内楽、そしてベルリン・フィルについても語ってもらった。

MINAMI 室内楽は小さい頃から個人のレッスンとセットでやるものと習い、常にそばにあるものでした。個人的には室内楽は楽しくて、なくてはならないものです。クロンベルクはソロだけやればいいということは全くなくて、ソロと室内楽それぞれで学んだことを活かしていく。それができる環境なのもクロンベルクですし、私の感覚にも合っています。

 クロンベルクはパーソナルな部分でも音楽的な部分でも、人との繋がりがすごく大切になる場所だと思いますが、それはオーケストラの大きな世界に行っても、そのコアの部分は通じるところと実感しています。

 ベルリン・フィルは、おそらく全員がソリストのように弾かなければいけないという考えなので、今までやってきたことを誰かに否定されることもないし、むしろのびのびやらせてもらっています。もちろん新しい世界で、勉強するべきこともたくさんありますが、あの環境にいることで成長できることの方が多いと思います。怖いということはなくて、それこそパーティーだらけです(笑)。定期演奏会の最終日が終わった後は打ち上げで、みんなでフランクに話したりしています。

――最後に今回の日本ツアーについて、改めて思いのほどを尋ねた。

MINAMI 実は前回のクロンベルク日本ツアー公演を聴いて、ここに行きたいという思いがより強くなったんです。今度は私がその舞台に乗る側で、少しでも日本の方にクロンベルクっていう素晴らしいアカデミーを知ってもらいたいし、室内楽、音楽の素晴らしさも感じてもらえたらと思います。

小野 日本全国で弦楽器を学んでいる子供達やスーパーキッズ・オーケストラのメンバーにとって“憧れのMINAMIさん”が、目の前で素晴らしいアンサンブルを演奏するのを体感したら、自分たちもこうなりたい、勉強していきたいという目標になるんじゃないかと思います。
 クロンベルクは遠いですけれども、この機会に知っていただき、「クロンベルク・アカデミー日本友の会」もありますので、皆さんにもいつかサポーターになっていただければありがたいと思います。

カザルスフォーラムの内観

クロンベルク・アカデミー 大阪公演2026
世界最高峰の師弟アンサンブルによる珠玉の室内楽

6/16(火)19:00 ワキタ コルディアホール
出演/ミハエラ・マルティン、MINAMI[吉田南]、ギド・サンタナ(以上ヴァイオリン)、今井信子、イ・ヘス(以上ヴィオラ)、フランス・ヘルメルソン、アルネ・ツェラー(以上チェロ)、アンナ・ハン(ピアノ)
曲目/
ショスタコーヴィチ:ピアノ三重奏曲第1番 ハ短調 作品8
シューベルト:弦楽四重奏曲第13番 イ短調 D.804 「ロザムンデ」
ドヴォルザーク:ピアノ五重奏曲第2番 イ長調 作品81
問:AMATI 03-3560-3010
http://www.amati-tokyo.com

サントリーホール チェンバーミュージック・ガーデン 2026
クロンベルク・アカデミー 日本ツアー2026

6/18(木)19:00、6/20(土)13:00 サントリーホール ブルーローズ(小)
出演/ミハエラ・マルティン、MINAMI[吉田南]、ギド・サンタナ(以上ヴァイオリン)、今井信子、イ・ヘス(以上ヴィオラ)、フランス・ヘルメルソン、アルネ・ツェラー(以上チェロ)、アンナ・ハン(ピアノ)
曲目/
【6/18】
ショスタコーヴィチ:ピアノ三重奏曲第1番 ハ短調 作品8
シューベルト:弦楽四重奏曲第13番 イ短調 D.804 「ロザムンデ」
ドヴォルザーク:ピアノ五重奏曲第2番 イ長調 作品81
【6/20】
R.シュトラウス:弦楽六重奏のための「カプリッチョ」
シェーンフィールド:「カフェ・ミュージック」
サラサーテ:「ナヴァラ」 作品33
シューベルト:弦楽五重奏曲 ハ長調 D.956
問:サントリーホールチケットセンター0570-55-0017
https://suntoryhall.pia.jp

KRONBERG ACADEMY
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