INTERVIEW クリスティアン・テツラフ(ヴァイオリン)
兄妹デュオで誘う神秘なる弦の世界

Christian Tetzlaff
ヴァイオリン

探求に終わりはない、もっと自然な演奏をしたい

 クリスティアン・テツラフは、来日公演のたびに練りに練ったこだわりのプログラムを披露する。得意とするJ.S.バッハの無伴奏もそのつど取り上げているが、5月に浜離宮朝日ホールで行われる妹のチェリスト、ターニャ・テツラフとのデュオ・リサイタルでもバッハが登場する。

 今回のプログラムはコダーイ「ヴァイオリンとチェロのための二重奏曲 op.7」、バッハ「無伴奏チェロ組曲第3番 ハ長調 BWV1009」(ターニャ)、「無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第3番 ハ長調 BWV1005」(クリスティアン)、ラヴェル「ヴァイオリンとチェロのためのソナタ」という構成。インタビューではこの選曲の聴きどころ、ふたりのデュオに関して、楽器についてなどさまざまなことを聞くことができた。

 「まず、オープニングに何をもってくるかをふたりでじっくり考え、コダーイにしようと意見が一致し、これに決まりました。弦楽器にピアノ伴奏という形が多いのに対し、弦2本のための作品の数は少ないのですが、非常に近い感覚の響きを有し、深く温かな音色が特徴です。コダーイはロマン的でハンガリーのイディオムが随所に顔をのぞかせ、民族的であると同時に自由さも備えています。全編に豊かな響きが横溢していて、私たちの音色に合っていますので、聴きやすいと思います。それぞれのソロの見せ場も多いんですよ」

 ラヴェルのソナタに関してはこう語る。

 「ラヴェルの作品は色彩の美に満ちています。弦2本が寄り添うことに対して恥じらうようなしぐさや、はかなさを感じさせます。年をとった男性が経験や知識は多くてもすでに野心は失われ、壊れそうな自分を必死で立て直そうとしている。そんな不思議で、ミステリアスな感覚を内包している作品だと考えています。最終楽章はヴィルトゥオーゾ的に作られ、人を引き付ける魅力にあふれています」

 この2作品にバッハの無伴奏作品を組み合わせる。テツラフは「無伴奏ヴァイオリン・ソナタ」全曲を三度録音しており、自家薬籠中の作品である。

 「ふたりともハ長調の作品を選びました。ヴァイオリン・ソナタ第3番は、弾くたびに歓びがからだ中にあふれ、純粋に音楽のすばらしさに心が震えます。最低音の弦から最高音の弦までが用いられ、フーガがすばらしい。死の舞踏とも思える箇所が現れ、人生の終わりを意識させます。私はソナタ全曲録音を行い、すでに45年間弾き続けています。最初は聖なる作品と考え、多分に身構えていましたが、徐々にバッハに近づき、現在は自由闊達で自然な演奏ができるようになりました。バッハの無伴奏作品は、人生の傍らに置いておきたい作品なのです。そして探求に終わりはなく、様式やフーガ、舞曲についてより深く知りたい、もっと自然な演奏をしたいと、いまも常に考えています。

 この間、影響を受けたのは、最初はガーディナー、ノリントン、アーノンクールをはじめとする指揮者です。マエストロたちは古楽奏法を取り入れながらも人間的なバッハに回帰する解釈を試みていました。その後、チェリビダッケ、マズア、マゼールとの共演により私自身の音楽観が変化し、より自由に、自信をもち、開放された感覚を抱くことができるようになったのです。現在は、何をしようかと考えることなく、瞬時に自分が望む音楽を自然に弾けるようになりました。そしてテツラフ・カルテットを創設したのも、自分の音楽を人と合わせる大切さに気付き、室内楽のすばらしい作品を演奏しないのは損だと考えたからです」

 楽器はドイツのヴァイオリン製作者ペーター・グライナーのものを使用している。

 「イタリアの高価な歴史的ヴァイオリンではなくグライナーの楽器を13年前から使用しているのは、純粋に音色に魅了されているから。弱音から強音まで限界がありません。弓は1717年製のもの。妹のチェロはグァダニーニで、とてもいい音色を備えています」

取材・文:伊熊よし子
(ぶらあぼ2026年4月号より)

クリスティアン・テツラフ(ヴァイオリン) & ターニャ・テツラフ(チェロ) デュオ・リサイタル

2026.5/25(月)19:00 浜離宮朝日ホール


曲目/
コダーイ:ヴァイオリンとチェロのための二重奏曲 op.7
J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲第3番 ハ長調 BWV1009(ターニャ)、
      無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第3番 ハ長調 BWV1005(クリスティアン)
ラヴェル:ヴァイオリンとチェロのためのソナタ

問:朝日ホール・チケットセンター03-3267-9990 
https://www.asahi-hall.jp/hamarikyu/