
右:カミーユ・トマ ©Dan Carabas / Deutsche Grammophon
新旧の力作が“いま”と鋭く響きあう、その深い共鳴を体感できる機会だ。日本フィルの第777回東京定期には、フレンド・オブ・JPO(芸術顧問)の広上淳一が指揮台に立って、ショスタコーヴィチが最後に遺した傑作交響曲と、トルコの鬼才ファジル・サイの強烈なコンチェルトをあわせて演奏する。
20世紀ロシアの大作曲家ショスタコーヴィチ──巨大な政治的圧力に耐えた彼の交響曲には、聴き込むほどに扉が開かれる“謎”がある。その魅力を最も鋭く、幻想的に織った傑作が、最晩年の交響曲第15番だ。(作曲家が幼少期に初めて好きになった曲だという)ロッシーニの《ウィリアム・テル》序曲が愉しげに鳴ったり、ワーグナーやショスタコーヴィチの過去の自作から、意味深長な引用が組み込まれたり……。強く厚い響きから室内楽的な美しさまで、オーケストラ表現の幅広さを語り尽くすなか、謎が謎を呼ぶ。個人的な感情を超えて、人間存在と社会への問いかけも響かせてゆくかのように。
併演はファジル・サイが2017年に発表したチェロ協奏曲「Never Give Up」。ヨーロッパとトルコで起きたテロ事件に焦点を当てた本作は、銃声も轟く痛切な音響と悲歌を挟んで最後は“希望の歌”へ……世界初演を弾いた辣腕カミーユ・トマを独奏に迎え“自由と平和への叫び”を響かせる。この2作が互いに照らし出す時間は、聴き手の奥底の感情をかき立てるだろう。
文:山野雄大
(ぶらあぼ2025年12月号より)
広上淳一(指揮) 日本フィルハーモニー交響楽団 第777回 東京定期演奏会
2026.1/16(金)19:00、1/17(土)14:00 サントリーホール
問:日本フィル・サービスセンター03-5378-5911
https://japanphil.or.jp



