バッハから委嘱作品の初演まで、気鋭の若手演奏家が350年の音楽史を駆け抜けるリサイタル・シリーズ「B→C」に、パリ国立高等音楽院で研鑽を積んだヴァイオリニスト、河村絢音が登場する。
河村のプログラムの大きな特徴は、ライブ・エレクトロニクス作品を多く含むことだ。「ミクスト音楽」とも呼ばれる器楽と電子音響のための音楽は、1980年代以降のフランス音楽の大きな潮流のひとつであり、河村の長年の研究テーマでもある。電子音響を担うのは、パリ音楽院とIRCAMで学んだ佐原洸。河村と佐原はミクスト音楽の可能性を探求するユニットとしても活動している。
90年代から2000年代にかけてパリ音楽院の作曲科教授を務めたエマニュエル・ニュネスの「アインシュピールング I」やIRCAMから羽ばたいた大器、サッシャ・ブロンドーの「アトラス II」のほか、河村と交流を重ねるパリ在住の青柿将大の「Soli 2」など、幅広い世代の作曲家によるライブ・エレクトロニクス作品が並ぶ。ニュネスはポルトガル生まれ、青柿は日本生まれだが、国籍を問わず、才能溢れる作曲家が互いに影響を与え合ってムーブメントを形成するのは、リュリ以来のフランス音楽の伝統であり、このリサイタルは「フランス音楽のいま」に触れるまたとない機会となる。ピエール・ブーレーズの無伴奏ヴァイオリン作品「アンテーム 1」やバッハの無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第2番、やはりパリ在住の坂田直樹に委嘱した新作など、河村のヴァイオリニストとしての素顔に触れることができる独奏作品も演奏されるので、拡張性を持ったライブ・エレクトロニクス作品とのコントラストをじっくりと味わいたい。
文:八木宏之
(ぶらあぼ2024年11月号より)
2024.11/12(火)19:00 東京オペラシティ リサイタルホール
問:東京オペラシティチケットセンター03-5353-9999
https://www.operacity.jp