30年以上欧州で活躍してきたピアニスト、樋口紀美子のオール・ショパン・プロ

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 1974年に渡欧、33年間もドイツで音楽活動を続けたピアニスト、樋口紀美子。2007年に帰国後も演奏と教育に邁進中だ。2024年はヨーロッパに渡ってからちょうど50年。記念リサイタルに合わせ、CDもリリースする。まずは50年の歩みを振り返ってもらった。

 「エッセン国立音楽大学とベルリン芸術大学で勉強してエッセンに4年間、ベルリンに29年間住みました。ベルリン時代の最大の出来事は、1989年11月10日にフィルハーモニーのカンマームジークザールでリサイタルを開いた日のことです。ベルリンでは日本と違って、年中、ピアノ・リサイタルが開かれているわけではないので、ピアノ好きの方が集まります。私はその日、ショパン、ドビュッシー等を弾きましたが、会場の雰囲気が熱くて、カーテンコールに出ていくと『ブラボー!』の大嵐。嬉しいけれど、何でこんなに熱狂してくれるんだろう?と。あとで聞いたら、何と、前の晩からベルリンの壁崩壊が始まっていたんです。だから客席には壁を乗り越えてきた東の人たちもいて、西の人と心を一つにして聴いてくださったのです」

 まさに歴史の1ページ。それからもベルリンと日本で定期的にリサイタルを開いてきた。

 「2006年に帰国してリサイタルを開催したとき、ふと、日本に住める気がしたんです。ベルリンヘ戻ると帰国準備に取り掛かりました。生徒をたくさん持っていたので、彼らの身の振り方を考えるのが一番大変でした。リーズ国際ピアノコンクールで第2位に入った生徒もいます。彼らの行先を決め、33年のドイツ生活に幕を引いて帰国しましたが、最初のうちは仕事がなかったですね。そのうちに昭和音楽大学から声がかかりました」

 今回の記念リサイタルはオール・ショパンだ。

 「私の音の歴史を聴いていただくにはショパンが一番かなと。ノアンにも行って深い感銘を受け、ショパンの第一人者、チェルニー=ステファンスカにもみてもらいました。後にお会いしたら優しかったけれど、そのときは怖かったですよ(笑)。

 今回は重い曲が多くなりました。op.48の2つのノクターン。バラード第3番。op.59の3つのマズルカ。『英雄ポロネーズ』は、私の母が19歳で樋口家に嫁いだ昭和20(1945)年2月、戦前にワルシャワ駐在陸軍武官だった祖父が万感の思いから母にリクエストした曲。あとは『幻想ポロネーズ』、op.62の2つのノクターン。スケルツォ第4番。CDもリリースします。中身の濃いリサイタルです。ぜひ、おいでください」
取材・文:萩谷由喜子
(ぶらあぼ2024年11月号より)

渡欧50周年 & CDリリース記念 樋口紀美子 ピアノリサイタル
2024.11/10(日)14:00 紀尾井ホール
問:ミリオンコンサート協会 03-3501-5638
http://millionconcert.co.jp

CD『樋口紀美子が弾く「英雄ポロネーズ」』
N&F
MF25706 ¥3300(税込)
11月発売