出口大地(指揮) 東京フィルハーモニー交響楽団
ベートーヴェン「第九」特別演奏会

日本デビュー以来共演を重ねる楽団と、ついに歳末の「第九」へ

出口大地 ©hiro.pberg_berlin

 1989年に大阪・豊中市で生まれた出口大地は東京音楽大学、ベルリンのハンス・アイスラー音楽大学で指揮を修める前、関西学院大学で法律を学んでいた。法曹と指揮の共通点は過去に書かれた文献——六法全書や楽譜を現代の目で読み直し、いま起きている課題に対処する点だろうか? 

 2021年のハチャトゥリアン国際コンクール指揮部門優勝を機に東京フィルハーモニー交響楽団と縁ができ、22年の定期演奏会に抜擢され、23年はミューザ川崎シンフォニーホールなどでベルリオーズ「幻想交響曲」を初めて指揮する機会を得た後、歳末はついにベートーヴェン「第九」(交響曲)の演奏会を任された。「幻想」を聴いて思ったのが譜読みの緻密さと躍動感の兼備であり、「書かれた情報」から現実の音への造型(ゲシュタルトゥング)の確かな方法論の存在だった。

 東京音大の恩師、広上淳一は若いころ、同世代で東京フィル常任指揮者だった大野和士が「ある程度の年齢に達するまで『第九』は控える」と漏らした時、「指揮の難所がたくさんあるから、筋肉が若いうちに振りを覚えた方がいい」とアドバイスした。今回、新国立劇場合唱団の合唱指揮を担う水戸博之も広上門下の若手で、フレッシュな響きの創造を出口とともに目指す。

 独唱の光岡暁恵、中島郁子、清水徹太郎、上江隼人は普段ベルカント・オペラで活躍する美声の持ち主。イタリアでテバルディ、シミオナート、デル・モナコ、バスティアニーニがベートーヴェンの「第九」を歌う姿は想像できないが、「第九大国」の日本ではこんな贅沢も許される。
文:池田卓夫
(ぶらあぼ2023年12月号より)

2023.12/22(金)19:00 東京オペラシティ コンサートホール
12/23(土)19:00 サントリーホール
12/24(日)15:00 Bunkamura オーチャードホール
問:東京フィルチケットサービス03-5353-9522 
https://www.tpo.or.jp