“新世界”アメリカが故郷の記憶を呼び覚ます
神奈川フィルハーモニー管弦楽団のみなとみらいシリーズ定期演奏会第390回(11/18)は、ダイバーシティの時代を象徴、人種やジェンダー(性差)、大陸の壁を一気に取り払った画期的なキャスティング、プログラミングだ。
指揮は2006年にフランクフルトのショルティ国際指揮者コンクールで女性初の1位を得たシーヨン・ソン(1975〜)。韓国プサン市の出身だが、2001年から06年にわたってベルリンのハンス・アイスラー音楽大学で旧東独を代表するオペラのカペルマイスター(楽長)、ロルフ・ロイター教授の指導を受け、まずはドイツの歌劇場でキャリアを積んだ。ヴァイオリン独奏の辻彩奈(1997〜)は2016年のモントリオール国際音楽コンクールに優勝して頭角を現し、昨年は神奈川県民ホール主催《浜辺のアインシュタイン》(ウィルソン&グラス)新演出上演に参加、演奏だけにとどまらない強い存在感を示した。辻が弾くコルンゴルトのヴァイオリン協奏曲は、ウィーンの天才少年だった作曲家がユダヤ系であるがゆえにナチスから逃れて米国へ渡りハリウッドの映画音楽で成功した後、純音楽へ戻って最初の時期(1945年)に書いた名曲。
「新世界より」はニューヨーク滞在中のドヴォルザークのチェコへの郷愁、米先住民の音楽が渾然一体となった傑作。冒頭の日本初演曲「アメリカにおけるエチオピアの影」はアフリカ系アメリカ人の女性作曲家第1号、フローレンス・プライス(1887〜1953)が1932年に作曲、アフリカから最初に奴隷としてアメリカへ連れてこられた黒人の物語だ。
文:池田卓夫
(ぶらあぼ2023年11月号より)
みなとみらいシリーズ定期演奏会 第390回
2023.11/18(土)14:00 横浜みなとみらいホール
問:神奈川フィル・チケットサービス045-226-5107
https://www.kanaphil.or.jp