ピアノの詩人が愛した故郷の舞踊音楽をクローズアップ
田崎悦子は楽曲に対する真摯な姿勢、溢れる愛情によって作曲家の言葉を紡ぎ出すような演奏を聴かせてくれるピアニスト。その凄みは年々増しており、唯一無二の音色、情熱的でスケールの大きな音楽づくりで聴く者に感動を与えている。彼女は定期的に、様々なアイディアを盛りこんだリサイタルを開催しているが、2021年からは東京文化会館でのシリーズ「Joy of Music」を開始。今年の公演はその第5回となる。
「Joy of Chopin」のタイトルを冠した今回は、ショパンの作品番号の付されたマズルカ全曲を演奏するという意欲的なプログラム。田崎は2018年のリサイタルシリーズ「三大作曲家の愛と葛藤」でもショパンのマズルカを演奏しており、作曲家の孤独や渇望、愛情など、あらゆる感情を届けてくれた。ショパンは数多くのピアノ曲を残しているが、その中でも生涯にわたって書き続けたマズルカは特別な位置を占める楽曲群。彼の故郷ポーランドの民族舞踊は、若くして愛する地を離れ、帰ることのできなかったショパンにとって常に心に寄り添う音楽であり、このリズムを用いて作曲することで最も自分の想いを表現することができたのだ。作曲家が楽譜にこめたものの本質を届けてくれる田崎の演奏で、それを強く実感できるだろう。精度の高い技術はもちろんのこと、常に音楽に対して敬愛の念を持ち、作曲家と対話するようにピアノに向かい続けている彼女だからこそできる演奏にぜひ耳を傾けてほしい。
文:長井進之介
(ぶらあぼ2023年10月号より)
2023.11/5(日)14:00 東京文化会館(小)
問:カメラータ・トウキョウ03-5790-5560
http://www.camerata.co.jp