シンガポール生まれの気鋭が、2023年から首席指揮者を務める日本フィルを指揮したデビュー盤。グスタフ・マーラー国際指揮者コンクールの覇者による注目のマーラー演奏でもある。まず挙げられるのはテンポ感の良さ。確かな運びの中で、時に大胆な振幅が耳を惹きつける。第1楽章は特にそう。第2楽章は極めて迫真的で、第3楽章は自然な躍動感が光る。第4楽章は静謐な中にもほのかに官能的で、第5楽章は多様な動きが明解に綾なしながらダイナミックに高揚する。かように全体の構築も見事だし、ホルンはじめ各楽器のソロも秀逸。今後のコンビの成果に期待が高まる好演だ。
文:柴田克彦
(ぶらあぼ2022年9月号より)
【information】
CD『マーラー:交響曲第5番/カーチュン・ウォン&日本フィル』
マーラー:交響曲第5番
カーチュン・ウォン(指揮)
日本フィルハーモニー交響楽団
信末碩才(ホルン)
オッタビアーノ・クリストーフォリ(トランペット)
収録:2021年12月、サントリーホール(ライブ)
日本コロムビア
COCQ-85588 ¥3300(税込)