小林壱成 ヴァイオリン リサイタル

若きコンサートマスターの“充実の今”を聴くリサイタル

©︎Shigeto Imamura

 すばらしい才能と個性をもつ20代の演奏家たちの活躍が目立つ中、殊に顕著な活躍を見せているヴァイオリニスト小林壱成。早くから頭角を現し、東京藝術大学大学院からベルリン芸術大学大学院を経て、2021年9月からは東京交響楽団のコンサートマスターに就任。ソリストとしての力量、アンサンブル力、人間力までが要求される大役であり、彼がどれほどのプレイヤーなのかが窺えるだろう。

 その小林が9月に「2018年度青山音楽賞 新人賞受賞研修成果披露演奏会」としてリサイタルを開く。京都の青山音楽記念館バロックザールで各年度に開催された公演の出演者から、活躍を期待する若手演奏家に贈られる「新人賞」は、賞金のほか音楽研修費、研修後の披露演奏会費用が用意されるのが特徴。今回はベルリン留学研修の成果を披露する公演となる。

「研鑽の成果ということで、ドイツで勉強した曲や昨年東響に入ってからの経験を反映させたいと考え始めて、東響入団後にシューマンの交響曲やフランクの交響詩を弾いたことから、『結婚』というテーマでプログラムを組めると思いつきました。メシアン『主題と変奏』は奥さんのために書いた曲、フランクのソナタはイザイの結婚式のために書いた曲で、シューマンの曲はクララが関わっていて、こどもができて幸せな時期に書かれた『アダージョとアレグロ』、時を経て精神的に壊れていきそうなときにクララと助け合う時期のソナタ第2番。僕自身はまだ結婚していませんが(笑)、面白い組み合わせができたと思います。プログラムを組む時には必ず何かでつながっていて、自分の中で筋が通っていないといけないと考えています」

 この説明からも楽曲への愛着に、自分の経験と歴史的な背景を重ねて考える、熱い心とクレバーさを併せもつアーティスト像が浮かび上がる。その彼のルーツについて聞いてみた。

「広島にいた幼い頃から日曜日にはカトリック大聖堂のミサに参加していて、パイプオルガンの響きや聖歌隊の合唱や器楽は身近な存在でした。ヴァイオリンを始めたのは6歳の時ですが、半年後くらいにジュニアオーケストラに入り、みんなと一緒に音楽をするのがものすごく楽しくて、その後東京に来てもジュニアオケに参加しました。東京藝大では同年代の仲間に恵まれて、お互いに刺激し合って切磋琢磨できました」

 人との出会いや仲間との合奏を重視してきた小林自身、「もともとコンサートマスターになりたかった」とのこと。早くもその夢は叶い、喜びと責任感をつよく感じているという。

「コンサートマスターになれれば、ダイナミックなシンフォニーやオペラやバレエなど様々な音楽体験をすることができ、さらにソロも弾かせていただけることに魅力を感じていました。もちろん、なってみたら責任が伴うし、他の仕事の場でも“この人は東響のコンマスだ”という目で見られるわけで、下手な演奏はできないなと今まで以上に気持ちが入りますし、当たり前のことを当たり前にやる難しさも感じています。東響には度々ご縁があり、第5回の『こども定期演奏会』にこども奏者として参加したのが最初で、日本音楽コンクール本選で人生初のコンチェルトを弾いたときのオケも東響、定期でゲストコンマスとして呼んでもらったのも東響が初です。しかもそれがノットさん指揮で現代作品とベートーヴェンという大変なプログラムでしたが、その出会いもあって正式なコンマス就任に至ったようです」

 充実のときを過ごす小林がその成果を示すリサイタル。ピアノは「18年の京都や今年の紀尾井ホール公演など6年くらい共演していただいている方で、僕のことを完全に理解してくれて、さらに音楽を仕掛けてきてくれるのがとても魅力的」と全幅の信頼をおく小澤佳永。改めてプログラムについて聞いた。

「メシアンは最後に光で真っ白になるような瞬間があり、1曲目に置くことでその後に良い効果もあると考えました。フランクはオケで経験してから、作曲者の頭の中にこんな色付けがあったんだと気づき、その後初めて弾くソナタで本当に楽しみです。シューマン『アダージョとアレグロ』は大好きな曲で、ヴァイオリンで弾かれる機会は少ないようですが、ヴァイオリンならではのロマンティックな味わいが出ると思います。ソナタ2番は、シューマンが1番の出来に納得せずにすぐに作った曲。自分の芸術のために、結果は問わず作って納得したいという考え方が、僕はすごく好きです。技術的にも難しいんですが、精神性も含めて深く突きつめて弾きたいです」

 ソロ、オケのほか、アンサンブルもメンバーの「ステラ・トリオ」「ラ・ルーチェ八重奏団」などをはじめ活発に活動を重ね、「やれる曲は全部やりたいんです!」と屈託なく笑う。心から音楽を楽しむ、頼もしい俊英のいまを示すリサイタル、深く注目したい。
取材・文:林 昌英


【Information】
2018年度 青山音楽賞 新人賞受賞研修成果披露演奏会
小林壱成 ヴァイオリンリサイタル


9月24日(土)14:00 京都/青山音楽記念館 バロックザール
●出演
小林壱成(ヴァイオリン)
小澤佳永(ピアノ)

●曲目
O.メシアン:主題と変奏
C.フランク:ヴァイオリンとピアノのためのソナタ
R.シューマン:アダージョとアレグロ
R.シューマン:ヴァイオリンソナタ第2番

問:青山音楽記念館075-393-0011