創立50周年!躍進めざましい 山形交響楽団 現地レポート

取材・文:林昌英

山形交響楽団 (c)Kazuhiko Suzuki

 山形に行ったら、ぜひ山形市役所を訪れてほしい。市役所の外観の大きなウィンドウに山形交響楽団のコーナーがある。それも楽団の写真というに留まらず、直近公演チラシ、年間スケジュール一覧、さらにはなんと楽員全員の写真と名前が一人ずつ掲示されているのである。山形駅にも、町のそこかしこにも(自動販売機にまで!)、山響の写真や紹介が飾られたり貼られたりしている。それは驚きの光景だった。ここまで町を挙げてオーケストラを押し出しているところは他にあるのだろうか。

 山響の創立は1972年。東北初のプロ楽団として創立され、いまや国内屈指のユニークな活動と音色を誇るオーケストラとして認知されている。何より特筆したいことは、創立名誉指揮者・村川千秋の「子どもたちに音楽のミルクを届けたい」という理念が途切れることなく、県内各地の学校で演奏を披露する「スクールコンサート」を継続してきた結果、延べ300万人の子どもたちがその演奏を体験してきたという事実である。実質的にほぼすべての山形育ちの人々が山響の音に触れてきたといっても過言ではないだろう。

 今年は創立50周年という大きな節目の年であるが、半世紀の積み重ねが地元の文化を豊かにし、地元の人々から親しまれ、楽員が町で声をかけられることもあるという関係性を築いた。そのあり方は全国にも影響を与えていて、文化大使としての貢献の大きさも計り知れない。

阪哲朗 (c)Kazuhiko Suzuki

 山響が広く知られるようになったのは、長期にわたり常任指揮者(2004〜07年)・音楽監督(2007〜19年)を務めた飯森範親の貢献が大きい。アンサンブルを鍛え上げる一方で発信力も高めて、演奏の質と知名度を向上させたことで、全国から聴衆が集まるようになった。定期演奏会に聴衆が定員の半分くらいという苦しい時期もあったそうだが、楽団として発信やプログラミングの工夫などを重ねて、いまや9割近い集客を実現している。

 2019年からは阪哲朗が常任指揮者に就任。ドイツのレーゲンスブルク歌劇場で音楽総監督を務め、演奏ばかりか人事や予算に至るまで、あらゆることに関わってきた経験を持つ、誰よりも現場を知るマエストロである。日本に拠点を移したことで彼の指揮に接する機会が増えてきて、近年のテレビ番組で披露した流麗な指揮ぶりとヨーロッパの香りが感じられる快演も評判になった。その瑞々しい音楽の流れは、国内ではあまり接したことのないタイプの演奏に感じられる。

 今回、阪のリハーサルを見学して、その秘密の一端を垣間見られた。とにかく楽員の自発性を引き出すことに注力していたのである。「本番でいかに自由で楽しくできるか」をモットーに、オケに任せたいポイントはあえて練習で作りこまず、本番の即興性やひらめきを導き出す。日々が新しい音楽体験になることを信条とし、「とにかくマンネリになりたくない。演奏で遊びがしたいんですよ」と何度も繰り返していた。その思いを全身の自在な動きで表現して、かつ楽曲としてまとめあげるマエストロの手腕には驚嘆するばかりだが、オーケストラとの相互理解が深まっていることの表れでもあろう。

文翔館でのリハーサル

 阪は京都の生まれ育ちだが、両親は山形出身で、実は山形の人間であると語る。それだけ山形は彼にとって特別な場所で、ここで全力を注ぐという覚悟が様々なところから伝わってくる。音楽への情熱は言うに及ばずだが、スクールコンサートや若手への指導も条件にこだわらず可能な限り引き受け、自らの負担で「マエストロシート」を設定して子どもたちを招待するなど、様々な形で山形に尽くしている。自分のルーツというだけではなく、ここでこそ真にやりたかった活動ができているという充実感も感じられよう。

 2020年以来の活動制限の時期には、無観客ながらベートーヴェンの交響曲に取り組み、その映像をソフト化したことで、阪と山響のすばらしい成果が広く伝わることにもなった。そういった経験とノウハウも積み重ね、今後は配信もより積極的に行っていくという。

 文翔館という由緒ある施設で練習を行い、その窓からは山々を望める。自然と歴史を常に感じられる環境での活動は、山響独自のカラーを作る大きな要素になっている。阪哲朗と山形交響楽団の挑戦、今後も見届けていきたい。
(ぶらあぼ2022年8月号より)

山形交響楽団 今後の演奏会
鈴木秀美オラトリオシリーズ特別演奏会 “真夏の「メサイア」”
~やまぎん県民ホールシリーズVol.3~

2022.8/7(日)14:00 やまぎん県民ホール

指揮:鈴木秀美 
ソプラノ:中江早希 
カウンターテナー:上杉清仁 
テノール:谷口洋介 
バス:氷見健一郎 
合唱:山響アマデウスコア

曲目/ヘンデル:オラトリオ「メサイア」HWV56

問:山響チケットサービス023-616-6607 
https://www.yamakyo.or.jp