永く傾倒してきたベートーヴェン、シューマン、ショパンの代表作を
50年を超えるキャリアを経てなお第一線で輝き続けるピアニスト寺田悦子。その情感豊かで誠実な演奏によって、多くの聴衆を魅了してきた。近年では渡邉規久雄とのデュオ・リサイタル・シリーズが話題を呼び、ベートーヴェン、ドビュッシー、ショスタコーヴィチらの作品を取り上げ、多岐にわたる時代様式への精通と、音楽的な視野の広さを示した。また「調の秘密」シリーズや、時代楽器とモダンピアノを弾き比べるリサイタルなどを企画し、独自の探究心から聴衆の関心を誘うステージを展開している。
この6月に行うリサイタルは、題して「ロマン派への扉」。19世紀に大きく花開いたピアノ文化の中で、新しい地平をそれぞれに切り開いた3人の作曲家、ベートーヴェン、シューマン、ショパンに焦点を当てる。まさにロマン派の「扉」を開いたベートーヴェンの作品からは、寺田が昨今「再び心を奪われてしまった」と語る後期のソナタ第30番を取り上げる。終楽章に変奏曲形式をもつこのソナタは、晴朗で繊細な表情を見せる。続くシューマンの「幻想曲」は、ベートーヴェン記念碑建立募金に貢献するために書かれた大曲であり、激しさと優雅さとを持ち合わせている。後半にはショパンの「24の前奏曲」を据えた。全調を網羅しながら多様なキャラクターを聴かせるショパンの名曲を、寺田の多彩なタッチで聴き終える頃、私たちの眼前にはロマン派の世界が鮮やかに広がっていることだろう。
文:飯田有抄
(ぶらあぼ2022年6月号より)
2022.6/4(土)15:00 東京文化会館(小)
問:ジャパン・アーツぴあ0570-00-1212
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