弦楽五重奏版で聴くベートーヴェンのコンチェルト
横浜みなとみらいホールはただいま改修工事で長期休館中だが、その間に横浜市内各区をめぐる「横浜18区コンサート」が開催されている。同ホールと関係の深いソリストとオーケストラによる室内楽版の協奏曲を中心に据えている点が特徴だ。
2022年度は4月からスタートするが、その最初のコンサートに出演するのが横浜市招待国際ピアノ演奏会にも出演経験があり、パリ在住で世界的な活躍を続ける広瀬悦子である。東京交響楽団のメンバーによる弦楽五重奏と共演して、ベートーヴェンの「ピアノ協奏曲第4番」を演奏する。今回のコンサートに向けた抱負を聞いた。
室内楽編成ならではの音楽的対話
「私のほうからモーツァルトのピアノ協奏曲かベートーヴェンの第4番か、という2曲を提案させていただいて、ベートーヴェンをぜひ、ということで決まりました。弦楽五重奏版で演奏するのは初めてで、どんな響きになるのだろうかと、今から楽しみです」
と語る広瀬。ベートーヴェンの「第4番」には子どもの頃から親しんでいたそうだ。
「私はスズキ・メソードの音楽教育を受けたのですが、その時に、繰り返し聴いていたのがこのベートーヴェンの『第4番』の協奏曲でした。ルドルフ・ゼルキンなど比較的古い時代のレコードを聴いて好きになり、その音楽がずっと心の中に染み込んでいる感じです。しかし、弦楽五重奏版で演奏したことはありませんでした。オーケストラとの共演経験はもちろんありますが、今回は室内楽版で演奏するということなので、一人ひとりのメンバーとより濃密な対話をしながら演奏できるのではないかという期待があります」
ベートーヴェンの「第4番」といえば、第1楽章の冒頭がピアノのソロで始まるというユニークな構成を持っている。
「とてもベートーヴェンらしいと思うのですが、常に革新的なものを求めていた彼の一面を表現している部分だと思います。協奏曲全体としては、ベートーヴェンの人間的な側面がよく表れていると思います。非常に優しくて、思いやりの深い感じ、そして他人に何かを与えたいというような意志がありますね。
特に興味深いのは第2楽章です。ここはピアノとオーケストラの対話ですが、格調の高さを感じています。神々しい美しさがあり、音楽的な対話を通して神の世界に近づいていくような感覚で、音楽の素晴らしさが聴き手に伝わります。この楽章では、弦楽五重奏を演奏する東京交響楽団のメンバーのみなさんと会話し、そこからインスピレーションを得ていく、そんな演奏にしたいと考えています」
地域の文化拠点で音楽をより身近に
横浜18区コンサートの特徴は、18区それぞれにある比較的規模の小さい会場で演奏が行われることもあり、大きな会場で聴く時よりも、ソリストと弦楽五重奏の一体感を感じることができるという点にある。さらに協奏曲の前には独自のプログラムによる弦楽五重奏作品も演奏される。
「お客様とも近い距離で演奏することになると思いますので、演奏の中にあるアーティスト同士のコミュニケーションも感じ取っていただけると思いますし、お客様の反応がより近い場所で感じられそうなので、それも楽しみです」
そう広瀬は期待を語ってくれた。4月の「横浜18区コンサート」は戸塚区民文化センター「さくらプラザ・ホール」と西区の「はまぎんホール ヴィアマーレ」で開催される。自分の住んでいる場所の近くで開催されるコンサート、しかも少人数の演奏家による対話を楽しめるコンサートなので、ぜひ4月以降の「横浜18区コンサート」(全4プログラム8公演)をチェックしていただきたい。
取材・文:片桐卓也
(ぶらあぼ2022年3月号より)
横浜みなとみらいホール出張公演 横浜18区コンサート 第II期(2022年4月〜8月)
広瀬悦子(ピアノ) × 東京交響楽団メンバー(弦楽五重奏)
2022.4/26(火)15:00 戸塚区民文化センター さくらプラザ・ホール
4/27(水)15:00 はまぎんホール ヴィアマーレ
2/28(月)発売
問:横浜みなとみらいホール仮事務所チケットセンター045-682-2000
https://mmh.yafjp.org/mmh/
※各公演の詳細、発売日は上記ウェブサイトでご確認ください。