進化する重鎮3人、ピアノ三重奏の名曲に新境地
実力主義の音楽界に定年はない。「経年進化」する重鎮3人のトリオを聴く機会がまたやってきた。徳永二男(75、ヴァイオリン)と堤剛(79、チェロ)、練木繁夫(70、ピアノ)による「珠玉のピアノトリオ・コンサート」だ。
2015年2月の第1回以来、東京・銀座のヤマハホールで公演を重ね、2月11日の開催で8回目になる。10年にリニューアルオープンしたヤマハホールは「楽器と同様、木質の造りなので、年を経ていっそう柔らかい響きに変わってきた。我々3人も年甲斐もなく進化する」と徳永は笑う。3人合わせて224歳。2世紀以上の人生経験が詰まっている。深い表現力と新たな境地を聴かせる三重奏となりそうだ。
今回、3人はこだわりの作曲家、ベートーヴェンとブラームス、ショスタコーヴィチのピアノ三重奏曲を取り上げる。最後を飾るショスタコーヴィチの第2番は、15年と19年に続きシリーズ3回目の演奏となる。第二次世界大戦中の1944年に作曲され、疎開先で急死した親友の音楽評論家イワン・ソレルチンスキーを追悼する曲だ。
「3人ともショスタコーヴィチの第2番が好きでしてね。演奏家として何度も取り組みたくなる難曲。第1楽章の冒頭からいきなりチェロのフラジオレット(弦に軽く触れて高次倍音を出す特殊奏法)が登場し、過去2回とも堤先生は素晴らしい音を出した。作曲家の思いが詰まった曲だから、ユダヤ旋律を使った第4楽章に至るまで、3人で弾き終えたときの達成感は大きい」
1曲目のベートーヴェンの第11番「『仕立て屋カカドゥ』の主題による変奏曲とロンド」は隠れた名曲。op.121aと後期の作品番号だが、実際には1803年、32〜33歳頃に書かれたと思われる。「若い頃の夢とアイディアを盛り込んでいる」と徳永は話す。当時流行していたオペラのアリアを主題に使用し、変奏の終盤では、後の「交響曲第9番」第2楽章スケルツォを連想させるフガートも登場する。
2曲目に弾くブラームスの第2番も必聴だ。第1番から30年近く経った1882年に作曲され、意が注がれた構成を持つ傑作。短調の第2、3楽章で哀愁の歌を切々と聴かせるには、人生経験の豊かな3人がふさわしい。
「第1番はシリーズで2回弾いたが、第2番は初めて。ベートーヴェン、ブラームス、ショスタコーヴィチそれぞれの色の違いを楽しんでほしい」
こう話す徳永には、ピアノ三重奏に特別の思い入れがある。
「3人とも桐朋学園で学んだ。当時、齋藤秀雄先生が『室内楽をたくさんやりなさい』と指導し、私も小学5年生からピアノ三重奏に取り組んだ。弦楽四重奏よりも各人が自由な表現を発揮できる。米国で活躍された堤さん、練木さんと三重奏を始めるのは不安だった。でも2人とも齋藤先生に教わった『気配り目配り心配り』が素晴らしい。子どもの頃に同じ指導を受けた香りがする。音楽の表現力がどんどん増えてうれしい」
NHK交響楽団コンサートマスターを長年務めた徳永、サントリーホール館長で桐朋学園大学前学長の堤、米インディアナ州立大学教授を務めた練木。功成り名を遂げた熟練の3人が、さらに研鑽を重ねていく進行形を聴こう。
取材・文:池上輝彦
(ぶらあぼ2022年2月号より)
珠玉のリサイタル&室内楽
徳永二男、堤剛、練木繁夫による珠玉のピアノトリオ・コンサート Vol.8
2022.2/11(金・祝)14:00 ヤマハホール
問:ヤマハ銀座ビルインフォメーション03-3572-3171
https://www.yamahamusic.jp/shop/ginza/hall/