本場の語法が投影された、ドイツ・ロマン派の華
ドイツ語圏の歌劇場で叩き上げた日本人マエストロが、精緻な敏腕オーケストラを指揮してドイツものを聴かせる得難い公演。それが12月の紀尾井シンフォニエッタ東京の定期演奏会である。指揮は1995年ブザンソン国際指揮者コンクールで優勝した阪哲朗。その後、欧州各地の歌劇場でキャリアを重ね、なかでもベルリン・コーミッシェ・オーパーの専属指揮者時代には、約20演目170回余の公演を指揮。現在はドイツのレーゲンスブルク歌劇場の音楽総監督(GMD)を務めている。その立場から当然、言語はじめ生活は“ドイツ漬け”。だからこそ今回は、容易に真似できない本場の味わいが醸造される。
阪は、2013年に同楽団と初共演。日本の四季とフランスの粋をテーマにした作品で好評を博し、今回ドイツものでの再登場と相成った。演目はまず、シューマンの「序曲、スケルツォとフィナーレ」。濃密な響きと躍動感に溢れた小交響曲のような本作は、生演奏が稀なので聴き逃せない。メインもシューマンで、交響曲第4番。重厚でロマンティックな“The ドイツ”たる名曲だけに、阪の真価が存分に発揮される。さらにはR.シュトラウスの歌曲の代表作「万霊節」「献呈」「あした」などで、日本を代表するソプラノ・澤畑恵美が名唱を聴かせてくれるのも嬉しい。これらはむろん阪のキャリアが最大限に生きる作品でもある。また管弦楽伴奏の歌曲は、声とオーケストラの音量のバランスが重要なだけに、800席の紀尾井ホールでの演奏は、楽曲の本質を体感する稀少な機会となる。その意味でもここはぜひ足を運びたい。
文:柴田克彦
(ぶらあぼ + Danza inside 2015年11月号から)
第102回 定期演奏会
12/4(金)19:00、12/5(土)14:00 紀尾井ホール
問:紀尾井ホールチケットセンター03-3237-0061
http://www.kioi-hall.or.jp