中井恒仁&武田美和子(ピアノデュオ)

デュオの決め手は“阿吽の呼吸”

©Toshiaki Yamada
©Toshiaki Yamada

 デュオを組むようになって16年。幅広いレパートリーでピアノデュオの新境地を切り拓く中井恒仁&武田美和子が、“ピアノの芸術”と題したシリーズを始める。
(中井以下:N)「新シリーズでは、ソロからオーケストラ作品の編曲ものまで、ピアノで表現できるさまざまな作品を組み合わせ、芸術と呼べるようなステージを創りたいと考えています」
(武田以下:T)「多くの作品に取り組む中で、デュオとは本当に様々なことができると手ごたえを感じています。ダイナミックな表現、緻密な表現など、手が4つあることでピアノの可能性は大きく広がります」
 シリーズ初回(vol.1)では、演奏を積んだ二人の得意曲であるルトスワフスキの「パガニーニの主題による変奏曲」、ショスタコーヴィチの「2台ピアノのための組曲」を取り上げる。
T「ショスタコーヴィチが父親を亡くし、落胆していた15歳の頃の作品ですが、あふれるような創作への思いが感じられます」
N「厳かで壮大な響きがしますが、旋律や和声も魅力的。そんな若さで書かれたとは思えません。シンプルな音の組み合わせからも独特な美しい響きを生み出し、構成力を持って曲の良さをいかに伝えられるかがポイントです」
 そして、今回二人が演奏することを最初に決めていたのは、ドヴォルザークの交響曲第9番「新世界より」。作
曲者自身による連弾編曲版だ。
N「録音技術が発達していなかった時代は、作品を紹介したり楽しんだりするために、オーケストラ曲の連弾版がよく演奏されていました。『新世界より』は、故郷への想いを根底に、音楽がドラマティックに発展する作品です。美しいメロディが次々と現れ、もとはオーケストラ作品であるにもかかわらず、即興的な要素も感じます」
T「ピアノデュオは自由で小回りがきくので、相手に合わせて即興的な表現をするのに最適です。とくに連弾は、奏者の耳が物理的に同じ方向を向いているので、二人の集中が一つの楽器に集まり、瞬間的に音楽を創り上げるにはとても良いんです」
 今やその“阿吽の呼吸ぶり”は二人にとってあまりに自然なもの。そのため逆に、それが特別なことだと改めて気づく瞬間もあるのだという。
N「デュオの指導中など、たまに相手が変わって弾く時に、改めて、僕たち夫婦が打ち合わせもなく、呼吸や頭の中の音楽のイメージを合わせていることを実感する時はあります」
T「やりたいと思う音を出すと、彼は瞬時にそれを受け止めてくれるので、大きな安心感があります。だからこそ、どこまでもいろいろな表現に挑戦できるのかもしれませんね」
 シリーズの今後は未知数。二人で何ができるか、常にアイディアを出し合っているとか。ピアノの表現の可能性に挑むこれからに期待しよう。
取材・文:高坂はる香
(ぶらあぼ + Danza inside 2015年11月号から)

中井恒仁&武田美和子 ピアノデュオリサイタル “ピアノの芸術” vol.1
11/19(木)19:00 東京文化会館(小)
問:プロアルテムジケ03-3943-6677
http://www.proarte.co.jp