尾高忠明(指揮)

札響とのシベリウス・ツィクルスが遂に完結

©Martin Richardson
©Martin Richardson
「シベリウスの交響曲ですと第1番と第2番を聴く機会が多いと思いますが、第3番から第7番が本当に素晴らしいし、そこには彼の人生を辿れるような流れもあります。フィンランドの音楽家たちもそう言っていますし、僕は『3番〜7番を流行らす会』を作りたいくらい!」
 こう熱く語るのは、3年間にわたって札幌交響楽団と共にシベリウスの交響曲全曲サイクルに挑戦している尾高忠明。本拠地である札幌と同時期の東京公演で、2013年に第1&3番、2014年に第2&4番を取り上げたが、作曲者の生誕150年となる2015年には完結編として(そして尾高自身の音楽監督勇退公演として)交響曲第5番〜第7番の3曲が披露される。

シベリウスの人生を追体験

「2年間で4曲の交響曲をやってみて、お客様からも楽員からも驚かれたことが『3番と4番には大きな落差がありますね』ということでした。可愛らしい音楽の第3番から、がんになって絶望している時期に書かれた第4番を聴くと、人間はこんなに体調や精神状態の差で生み出すものが違うのかと実感するのです。
 しかしそこから病気が完治して、生きる喜びにあふれている第5番を聴くと、なるほど第4番の苦しみがあってこその音楽だなと実感しますね。50歳という節目を迎えて創作意欲もみなぎり、弾むような曲の終わり方などにもエネルギーを感じます。
 僕自身も今年(2014年)は友人のミッキー(井上道義)ががんになったことで落ち込み、元気に復帰してくれた喜びを感じているところですから、つい自分の気持ちが重なってしまうのです」
 コンサートでは3つの交響曲が作曲順に演奏される。それはおそらく聴き手にとって、シベリウスの人生や心の移り変わりなどを追体験するものになるはずだ。

これぞシベリウス!!

「第6番は初めて指揮をしますけれど、それまでの作品に比べ、オーケストレーションが凝縮されてバッハの時代に戻ったような音楽になってきます。ちょうど同時代にストラヴィンスキーたちが新古典主義の作風になってきたことと重なりますし、そこにシベリウス独特の繊細な弦楽の震えなどが加わって、彼だからこそ書ける作品ができ上がりました。勉強しながら『これこそシベリウスだな』と実感しているところなんです。
 その後の第7番は冒頭から音階が上がっていって、まるで天国へと昇っていくよう。そこにトロンボーンのコラールが入ってきて、死期を悟ったような音楽でもありますね。実際にはそのあともシベリウスは30年以上も生き続けることになりますが、創作意欲は第7番のすぐ後に衰えていくわけですから、この曲を“白鳥の歌”だと思ってもいいでしょう。
 こうして彼の交響曲を落ち込んでいる第4番から辿っていくと、人生に近づけるような思いさえします」

札響独特のクリスタル・サウンド

 国内外のオーケストラでシベリウスの諸作を指揮してきた尾高だが、札幌交響楽団がかもし出すクリスタルのような音は得がたいものであり、独特のシベリウス・サウンドが作れるという。
「ロシアやヨーロッパの影響が強い第1番や第2番も素晴らしいですが、ぜひこの機会に第5番〜第7番というシベリウスらしさがあふれた作品に接していただきたいと思います」という声に、シベリウス・ファンである筆者も迷いなく同意したい。
取材・文:オヤマダアツシ
(ぶらあぼ + Danza inside 2015年1月号から)

札幌交響楽団 第577回 定期演奏会
〜シベリウス交響曲シリーズ Vol.3〜
2015.2/13(金)19:00、2/14(土)14:00 札幌コンサートホールKitara
問 札幌交響楽団011-520-1771 
http://www.sso.or.jp

札幌交響楽団 東京公演2015 
2015.2/17(火)19:00 サントリーホール
問 カジモトイープラス0570-06-9960 
http://www.kajimotoeplus.com