中川英二郎(トロンボーン・侍BRASS楽団長)

スーパー・グループ「侍BRASS」15年を総括し新たな可能性を示す公演です

(C)Simon C.F. Yu

 例年満席の人気を集める東京オペラシティの夏の風物詩「侍BRASS」。ジャズやポップスを主軸に多方面で活躍する世界的トロンボーン奏者、中川英二郎はその楽団長を務めている。侍BRASSは、彼と土俵を同じくする“スーパートランペッター”エリック・ミヤシロにパーカッション奏者、そして東響、都響、読響のメンバーなどクラシック畑のトップ奏者とユーフォニアム奏者を加えた10人のブラス・アンサンブル。2006年に第1回公演を行い、今年結成15周年を迎える。

 「最初期メンバーであるトランペットの辻本憲一さん(現・読響首席)と演奏して、一緒にアンサンブルをやりたいと考えたのが結成のきっかけです。でも『よく続いたな』と思いますよ。プロの集団は様々な困難があって、自分が関わったグループでこれだけ続いている例は稀。しかもクラシックの音楽家たちとマイクを通さない演奏をして得られた経験値は物凄く大きいですね」

 最大の特徴はやはりジャンルを超えたメンバー構成と編成だ。
「私の中にはジャズとクラシックの垣根などないのですが、進める上では両方の奏者の融合がポイントだろうと。そこでエリックさんに声をかけ、アンサンブルの核はクラシックメンバーで。また一方、吹奏楽連盟のアンサンブルコンテストの最大編成である八重奏でユーフォニアムが入る曲がない。そこで同楽器を含む金管八重奏で楽譜も連動したアマチュアが楽しめる部分と、プロならではの技を見せる金打十重奏を併せ持つグループになりました」

 ならば自ずと演目はオリジナルの作曲・編曲作品になり、中川自身とエリックや、「キャッチーな音楽を書く」高橋宏樹などグループの特性を知る作曲家が、数々の名曲・名編曲を生み出してきた。

 そして2016年に本間千也(東京佼成ウインド)らトランペット2名とパーカッションが入れ替わったことで、シックなテイストから明るくブリリアントな方向にサウンドがシフトした感がある。
 「そこが15年で一番大きな変化でした。特に吹奏楽団にいる本間さんは、普段ポップスなどを演奏する機会も多いので、繋ぎ役になってくれます。すると譜面の書き方も随分変わりました」

 そもそも「侍」は、「メンバー各自がソロをとれる技量を持っていることを“侍”に例えた」と同時に、「海外に持っていくことを意識した」命名だという。
 「海外に行くと皆が侍BRASSを知ってるんですよ。世界にも類のないグループで、名前がいい方向に作用してもいる。なので海外公演も視野に入れています」

 今年8月の公演は、「扇の的」(高橋宏樹の新作タイトル)をテーマに、多彩な10曲が披露される。
 「今年は5年ぶりに10作目のアルバムを作りました。5年間に貯めた中からいい曲を集めましたし、慣れている曲をさらにブラッシュアップして録音に臨みました。今回の公演はCDの収録曲が8割を占めていますから、タイトなアンサンブル感を楽しんでいただけると思います。また八重奏曲や、クラシック、吹奏楽、ジャズ、アニメのアレンジなど様々な楽曲を入れた、15周年を総括する内容にもなっています。中でも『天流乱星』(中川作曲)が要注目。これは1つの楽器─今回はパーカッション─をフィーチャーした“協奏的アンサンブル”作品で、今後に向けて新たな分野を提示した1曲です」

 エリックの新編曲「残酷な天使のテーゼ」と「スペイン」(チック・コリア)も、彼の超絶ハイトーンを含めて楽しみだ。
 「エリックさんのアレンジは自らの長所を上手に出しますし、映える瞬間に合わせて彼が入ってきた時の広がり感が素晴らしい。彼はテクニックはじめいろいろな面で普通とは違うプレイヤーですから、期待して当然でしょう」

 侍BRASSの公演は、当分野には珍しく聴衆の幅が広い。
「中高生も約1/3を占めていて、彼らが大人の聴衆から楽しみ方や反応の仕方を教わる絶好の場になっているのを感じます。今回は今とこれからの侍BRASSのコンセプトを見せたいと思っていますので、期待してください」

 最高のテクニックと極上のエンタテインメントを満喫できる本公演に、皆ぜひとも接してほしい。
取材・文:柴田克彦
(ぶらあぼ2021年8月号より)

【Profile】
1975年東京都生まれ。5歳でトロンボーンを始め、高校在学中に初リーダー作を録音。名だたるアーティストとの共演を始め、映画、CM、TVなど多くの録音でも知られる。2018年、J.アレッシらと「スライド・モンスターズ」を結成。19年には豪メルボルンで開催された「International Jazz Day」に出演。読売日本交響楽団、大阪フィルハーモニー交響楽団、東京交響楽団、札幌交響楽団等と共演し、ジャンルを超えて活躍している。侍BRASS楽団長。

Information
侍BRASS 2021〈扇の的〉

2021.8/29(日)15:00 東京オペラシティ コンサートホール

中川英二郎:天流乱星
ファリャ(高橋宏樹編):バレエ音楽「三角帽子」より
滝澤俊輔:応天門炎上
高橋宏樹:扇の的
佐藤英敏(エリック・ミヤシロ編):残酷な天使のテーゼ
チック・コリア(エリック・ミヤシロ編):スペイン 他

出演
中川英二郎(トロンボーン) エリック・ミヤシロ 本間千也 澤田真人 オッタビアーノ・クリストーフォリ(以上トランペット) 森 博文(ホルン) 野々下興一(バストロンボーン) 齋藤 充(ユーフォニアム) 次田心平(テューバ) 岩瀬立飛(パーカッション)

問:東京オペラシティチケットセンター03-5353-9999 
https://www.operacity.jp

他公演 
2021.8/31(火) アクトシティ浜松(中)(浜松市文化振興財団053-451-1114) 
※浜松公演はプログラムが一部異なります。