アンサンブル・アンテルコンタンポラン

時代の扉を開いてきた最高峰の奏者たちがこの夏来日!

(c)EIC

あのブーレーズ・フェスで強烈なインパクトを残した精鋭集団

 未知の楽しみを理解するうえで、最高品質に接することは、唯一の早道である。その意味で、1995年に開催された「ピエール・ブーレーズ・フェスティバル」でのアンサンブル・アンテルコンタンポラン(EIC)、特にブーレーズ「レポン」の名演は、新しい音楽への扉を開いてくれる、歴史的な大事件であった。

 あれから26年。その間にも小規模な来日はあったが、いよいよ再び彼らが本気の“攻めの”プログラムを日本で展開する。

 76年に創設されたEICは、戦後フランスの前衛音楽の闘士だったブーレーズが、IRCAM(フランス国立音響音楽研究所)との連携により、20世紀音楽の重要作や新作を継続的かつ広範に演奏できるように、31名からなる強力なソリストを集めたことで始まった。それは、組織と個人の関係においてより自由であろうとする、新しいアンサンブル形態であり、あらゆる意味で音楽の最前線であろうとする意志の表れであった。現在はフィルハーモニー・ド・パリを本拠に、71年ドイツ生まれの作曲家・指揮者マティアス・ピンチャー(近年はオペラでも活躍中)が音楽監督を務め、さらに旺盛な活動を展開している。

三館それぞれ異なる多彩なプログラムを用意

 この8月の来日では、サントリーホール、水戸芸術館、神奈川県立音楽堂と3つのホールで集中的に公演を行う。

 まずサントリーホール恒例の夏の現代音楽祭「サマーフェスティバル2021」に登場。いくつかの公演のなかで、とりわけ注目されるのは、細川俊夫のオペラ《二人静〜海から来た少女〜》(2017/日本初演)と、マーラー「大地の歌」(コーティーズ編)の二本立てによる公演(8/22)。細川はこれまでにも能を現代の物語へと置換したオペラを書いてきたが、今回の平田オリザの原作は、地中海の浜辺にたどり着いた現代の難民の少女に、能の主人公である静御前が取り憑くという興味深いもの。能声楽家の青木涼子は、能の伝統に基づいた特別な声の響きが世界的にも注目されている。それがオペラにどう生かされるのか? 小編成へと還元された「大地の歌」のメゾソプラノのパートを、ワーグナーやドイツ歌曲に国際的実績のある藤村実穂子がどう歌うかも楽しみである。

 水戸芸術館のプログラムは、20世紀前半の名作である(と言っても、今聴いても刺激満点だが)ヴァレーズの「オクタンドル」(1923)からスタートし、ブーレーズ「デリーヴ第1番」(1984)、三善晃「ノクチュルヌ」(1973)、ドナトーニ「ルーメン」(1975)、カーター「モザイク」(2004)、リンドベルイ「コヨーテ・ブルース」(1993)、マレシュ「アントルラ(網目模様)」(1998)と国籍も楽器編成も異なるバラエティ豊かな作品群をめぐり、最後に再び20世紀音楽の古典であるマデルナ(1920−1973)「セレナータ第2番」(1954)へ還ってくる。つまり古典にはじまり冒険を経て再び古典に戻る、アーチ状の構成が面白い(8/27)。

 神奈川県立音楽堂は、グリゼイ「2つのバスドラムのための『石碑』」(1995)、ソルヴァルズドッティル 「Hrím(霜)」(2010)、リゲティ「13人の器楽奏者のための室内協奏曲」(1969−70)、ブーレーズ「アンセム1」(1991)、一柳慧「室内交響曲『タイム・カレント』」(1986)、ウルキーザ「さえずる鳥たちとふりかえるフクロウ」(2020)。楽器編成や国籍にバラエティをもたせ、現代音楽の巨頭や日本の作曲家を必ず入れているのは共通だが、こちらの特徴は、EICが強く推奨する二人の若手作曲家の作品が含まれていること。リゲティら巨匠の名作を盛り込みつつ、より挑戦的な内容でもある(8/29)。

 真の超一流の精確な演奏によってこそ、新しい知覚の扉は開かれる。今回のEICの来日も、きっとのちのちまで語り草になる事件となることだろう。
文:林田直樹
(ぶらあぼ2021年8月号より)

【サントリホール サマーフェスティバル2021】
ザ・プロデューサー・シリーズ アンサンブル・アンテルコンタンポランがひらく
〜パリ発―「新しい」音楽の先駆者たちの世界〜
2021.8/22(日)〜8/24(火) サントリーホール 
問:サントリーホールチケットセンター0570-55-0017
https://www.suntory.co.jp/suntoryhall/feature/summer2021/
※フェスティバルの詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。

【水戸芸術館 アンサンブル・アンテルコンタンポラン演奏会】
2021.8/27(金)19:00 水戸芸術館コンサートホールATM
問:水戸芸術館チケット予約センター029-231-8000 

https://www.arttowermito.or.jp

【神奈川県立音楽堂 音楽堂ヘリテージ・コンサート アンサンブル・アンテルコンタンポラン】
2021.8/29(日)15:00 神奈川県立音楽堂
問:チケットかながわ0570-015-415 

https://www.ongakudo-classic.com