サクソフォン界を牽引する名手2人の共演再び!
ソロ奏者として長年第一線で活躍している須川展也と、東京佼成ウインドオーケストラのコンサートマスターとして吹奏楽界を牽引する田中靖人。
日本を代表する2人の「サクソフォンの巨匠」が6月12日(土)、東京・銀座のヤマハホールで「珠玉のリサイタル&室内楽 須川展也&田中靖人 サクソフォンデュオ・コンサート〜ピアニスト、小柳美奈子と共に〜」を開催する。
2人が初めて出会ったのは、須川展也が東京藝術大学1年、田中靖人が高校1年のときだったという。初めは言葉を交わすこともなかったが、その数年後、須川が東京藝大の仲間とともに立ち上げたユニット「トルヴェール・サクソフォン・アンサンブル」に、国立音楽大学に通っていた田中が参加。ユニットは「トルヴェール・カルテット」と名前を変えて現在まで活動を続けている。また、2人は同時期に東京佼成ウインドオーケストラで活躍していたこともあり、お互いの人間性も音楽性も知り尽くした「盟友」だ。
だが、意外なことにデュオでコンサートを開くのは今回が2回目で、東京では初となる。
「ヤマハホールから『何かおもしろいコンサートをやってみないか』という話が来たとき、すぐに『やっくん(=田中)とデュオをしてみたい!』と思いつきました」
須川展也は笑顔でそう語る。そして、今回のデュオ・コンサートに散りばめられた「仕掛け」について教えてくれた。
「1曲目は僕がソプラノで無伴奏でソロを吹き、2曲目は僕がアルトでピアノ伴奏でソロ。3曲目はやっくんがピアノ伴奏でテナーを吹き、4曲目はやっくんのバリトンとピアノ伴奏……という感じで、前半はそれぞれのソロが楽しめるようになっています。ソプラノ、アルト、テナー、バリトンという4つのサックスそれぞれの魅力や個性も感じてもらえると思います。そして、その後は僕とやっくんがバリトン2本でデュオ(笑)! ここはちょっと笑いがあるコーナーになると思いますよ」
一方、田中靖人は自身のソロ演奏のコーナーで「チャレンジ」をするという。
「ポール・クレストンの《サクソフォン・ソナタ Op.19》をバリトンで吹くんですが、もともとこの曲はアルトサックス用に書かれたもの。1オクターブ低いバリトンでどんな表現ができるか、という挑戦の曲です」
そして、コンサートのクライマックスには世界初演となる長生淳作曲の新作委嘱作品が用意されている。この曲では須川がアルト、田中がバリトンを演奏。それ以外の詳細は「いまはまだ秘密」(須川)とのことだ。ピアノ演奏はすべて、長年トルヴェール・カルテットとともに歩んできた小柳美奈子が務める。
さて、今回せっかく2人の巨匠にインタビューするということで、「演奏が上達するためのワンポイントアドバイス」を聞いてみた。
まず、須川は「たった4小節でもいいから、自分が大好きなメロディを1日1回吹くこと」と答えてくれた。
「僕が最初に好きになったサックスのメロディは、テナーサックス奏者のサム・テイラーが演奏する《ハーレム・ノクターン》でした(笑)。ムーディーで色っぽい曲なんですけど、僕はそれを聴いてフルートからサックスに転向したくらい好きで、もちろん毎日吹いていました。楽器の練習は大変なこともありますけど、大好きな曲を毎日吹くことで音楽や楽器が好きになりますし、演奏も上達すると思います」
一方の田中は、練習する際のマインドが重要だと語る。
「よく『どうやったらタンギングが早くできますか?』『高い音をきれいに出すコツはありますか?』といった質問を受けますけど、ぜひ発想を変えて、『どうやったら演奏が面白くなるか』という観点で練習していただきたいですね。そのほうが楽しく楽器に向き合えますし、上達も早いと思います。僕たちプロ奏者も、いつも『どうやったら面白くなるか』を考えています」
コロナ禍で練習場所を失い、住宅事情などで自宅でも楽器を演奏できない、という人も少なくなかったが、そんな人たちへのアドバイスとして2人から共通して出てきたのが「聴くこと」だった。
「自分で音は出せなくても、聴くことはできますよね。良い音楽を聴き、その音を自分の中にイメージとして取り込んだり、自分なりにイメージを膨らませていくことは、楽器を演奏するのと同じくらい大事なことだと思います」
田中はそう語った。
いつか思い切り楽器を奏でられる日が来ると信じて、聴くことで耳を鍛え、理想のイメージを持つことも立派な練習だ。そういう意味では、2人のコンサートはこれ以上にない「耳を鍛える」「理想のイメージを持つ」体験になるだろう。
実は、このコンサートは本来ならば昨年3月に行われる予定だったが、新型コロナウイルスの影響で延期となっていた。今回、約1年3ヵ月を経て待望のデュオ・コンサートが実現する。また、当日来場できない人のために配信チケットも販売される。
2人の巨匠が4種類のサクソフォンを駆使して奏でる至上の音楽をぜひ会場で、あるいは配信で体感していただきたい。
取材・文:オザワ部長 写真:編集部
【Information】
珠玉のリサイタル&室内楽
須川展也&田中靖人 サクソフォンデュオ・コンサート~ピアニスト、小柳美奈子と共に~【配信あり】
2021.6/12(土)14:00 ヤマハホール(完売)
問:ヤマハ銀座ビルインフォメーション03-3572-3171
https://www.yamahaginza.com/hall/
*本公演はライブ配信を予定しています。視聴方法、視聴チケット購入方法については下記、PIA LIVE STREAMの公演ページをご確認ください。
なお、アーカイブ配信の内容は一部ライブ配信の内容と異なり、「薮田翔一:Delos 」と「P.クレストン:サクソフォン・ソナタ」はアーカイブ配信を行いません。
出演
須川展也(サクソフォン)
田中靖人(サクソフォン)
小柳美奈子(ピアノ)
曲目
J.S.バッハ(須川編):無伴奏ヴァイオリン・パルティータ 第3番 BWV 1006 より 第3曲「ガヴォット・エン・ロンドー」 [須川展也(ソプラノ無伴奏)]
薮田翔一:Delos(須川展也委嘱作品、世界初演) [須川(アルト)、小柳美奈子(ピアノ)]
R.クレリス:セレナード・ヴァリエ [田中靖人(テナー)、小柳]
P.クレストン:サクソフォン・ソナタ Op.19 [田中(バリトン)、小柳]
J-M.ルクレール(J-M.ロンデックス編)/ソナタ ハ長調(原曲) [田中(バリトン)、須川(バリトン)]
N.ロータ(加藤昌則編)/道 [須川(ソプラノ)、田中(アルト)、小柳]
長生 淳:新作委嘱作品(世界初演) [須川(アルト)、田中(バリトン)、小柳]
BOOKS
『絶対! うまくなる
サクソフォーン 100のコツ』
須川展也 著
ヤマハミュージックエンタテインメントホールディングス刊
¥1980(税込)
※演奏に深みを! 基礎から応用まで上達のためのテクニックを伝授。
唯一無二のサクソフォーン教本。