ヨーロッパの空気感を伝えたい
いま最注目のチェリスト横坂源が、東京・春・音楽祭の『齋藤秀雄メモリアル基金賞受賞者支援コンサート』に出演。同賞はソニー音楽財団が主宰し、2002年から毎年、小澤征爾や堤剛らの選考により、有望な若手指揮者とチェリストに与えられている。横坂は08年度の受賞者だ。
「コンクールと違い、欲しいと思っていただけるものではないので驚きました。齋藤先生の業績は本などでしか知らないのですが、先生が師事したフォイアマンが大好きなので、個人的なあこがれはあります」
リサイタルは、フランス・バロックのフランクールに始まり、デュティユー、ヤナーチェク(おとぎ話)、ブラームス(ソナタ1番)、ラフマニノフ(ソナタ)というプログラム。共演のピアニストは伊藤恵。
「プログラムは、共演者の方と何を演奏したいのかということを主軸に考えます。今回は伊藤恵さんとラフマニノフを弾くのが大きなテーマで、とても楽しみです。天使のようなオーラが出ている素敵な方で、高校1年生の頃からずっと面倒をみていただいています」
実は2月下旬から4月末まで、長いドイツ・ツアーの真っ最中。このコンサートのためにいったん帰国する。
「ヨーロッパの空気をフレッシュな状態で日本に運ぶことができたら、それが僕の理想なので楽しみです。ただ、環境が違うと感じ方も変わってくるので、ドイツの空気感でそのままやってしまうと、またちょっと味が違ったりするのです。ヨーロッパだと、どの曲を弾いても自分の中でテンポ感が少し上がります。日本では、アクティヴというよりは、音の中身をしっかり感じながら構成していくという感覚です、そのバランスをうまくコントロールしたいですね」
往年の巨匠の演奏に強い憧れを抱く。
「チェロならフォイアマン、ピアティゴルスキー。その人の芯というか、音楽哲学がきちんとあって、それを加工せずそのままステージに出すことが許されていた時代です。しかし、それぞれにすごい個性があって全然違う演奏でも、楽譜の読み方にはものすごい規則性があるのを感じます。そのルールの中で、曲への共感をどうやって音として表現するかという、その幅が違うだけなんです。ああいう音を出せるようになったらいいなと思いますし、死ぬまでに、そのスタートラインには立ちたいですね」
もちろん彼がすでにそのスタートラインから走り始めているのは、ファンなら十分承知しているだろう。いまだにガラケーを愛用し、連絡にはファックスを使うという頑固な一面も頼もしい、若き大器だ。
取材・文:宮本 明
(ぶらあぼ2014年4月号から)
東京・春・音楽祭ー東京のオペラの森2014ー
齋藤秀雄メモリアル基金賞受賞者支援コンサート
横坂 源(チェロ) ★4月11日(金)・東京文化会館(小) Lコード:37646
問:東京・春・音楽祭チケットサービス03-3322-9966
http://www.tokyo-harusai.com