ロベルト・ミンチュク(指揮) 東京都交響楽団

ロシアとブラジルの隠れた名曲を愉しむ

 ロベルト・ミンチュク。この南米ブラジルの指揮者の名前を私たちが初めて耳にしたのは、2009年夏に東京オペラシティで開催された「ヴィラ=ロボス『ブラジル風バッハ』全曲演奏会」の時である。チェロ合奏にヴォカリーズが加わった第5番はよく知られているが、全9曲を総計5時間かけて連続演奏するという世界的にみても類例のない壮絶な企画のために、はるばる地球の裏側からやってきてくれたのだ。
 ミンチュクはホルン奏者としてキャリアをスタートさせた後、マズアのもとで研鑽をつみ、指揮者デビューを果たした。ヴィラ=ロボスの解釈者というにとどまらず、ブラジル国内の主要なポストを歴任し、現在はブラジル響首席指揮者に加え、カナダのカルガリー・フィル音楽監督も務めている。
 そうはいってもミンチュクなら、やっぱりヴィラ=ロボスは押さえておきたい。今回の都響への客演では同郷のピアニスト、ジャン・ルイ・ストイアマンのソロで、「モモプリコシ」という協奏的作品を取り上げる。「ブラジルの子供の謝肉祭」というピアノ独奏曲をもとにして作られた曲で、おもちゃ箱をひっくり返したようなにぎやかで色彩的な世界が繰り広げられる。
 ほかにもストラヴィンスキー「小管弦楽のための組曲第1番」、ラフマニノフ「交響曲第1番」と、上演機会こそ多くないものの、耳で楽しめるモダンな音楽が並んでいる。「『ブラジル風バッハ』全曲」のような酔狂な企画が成立する国の聴衆のために、「選び抜きました」と言いたげなプログラム。みんなで受けて立とうではないか。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2014年3月号から)

第769回 定期演奏会Aシリーズ
★4月8日(火)・東京文化会館 
問:都響ガイド03-3822-0727
http://www.tmso.or.jp